トヨタ自動車が工場やクルマの脱炭素化を本格化させる。 海外の競合がCO2排出の少ない電力を武器に、強気の脱炭素戦略を急速に進めているからだ。日本の巻き返しには、鉄鋼など素材と、電力・エネルギーの脱炭素化が欠かせない。トヨタの放った号砲で、日本企業は技術革新と事業転換を急ピッチで競い始めた。

 トヨタ自動車は、2035年に世界の工場からのCO2排出を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にする。これまでは50年に達成するとしていたが、15年前倒しする。6月11日の同社の説明会で、チーフ・プロダクション・オフィサー(CPO)を務める岡田政道執行役員が発表した。

「欧州にクルマを売るために」

 日本や北米、欧州、中国などアジア、中南米の工場を含む事業所全体で19年に568万tのCO2を排出した。岡田CPOによれば、工場では車体の塗装や金属部品の鋳造といったプロセス改善や材料見直しで電力や熱の消費を減らし、CO2排出を減らす。

 再生可能エネルギーや水素などCO2排出ゼロのエネルギーも利用して、電力や熱の需要を賄う。加えて「クレジット」も活用する方針を明らかにした。クレジットは、省エネや再エネ導入、森林経営などによるCO2削減量を売買できるように第三者が認証したもの。実質ゼロを前倒すのに、コストをかけてクレジットを購入することも必要と判断したとみられる。

 昨年10月、国は50年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指すことを決め、今年4月には30年度に13年度の排出実績と比べて46%削減する目標を新たに発表した。これに続くトヨタによる実質ゼロ前倒しの発表を、国の目標強化を踏まえたものと位置づけるのは妥当ではなさそうだ。むしろ、日本の産業界が、欧州などグローバル市場で吹き荒ぶカーボンニュートラルの強風に耐えながら、技術開発の険しい壁を越えて行こうとする号砲と言える。

 ただ、自動車メーカー工場のCO2排出量は、サプライチェーン全体の排出量のごく一部に過ぎない。世界のトヨタ工場からの排出量は、同社サプライチェーン全体の排出量のうちわずか1.4%だ(19年実績)。むしろ調達する部品と、これを構成する素材を作る数万~十数万社というサプライヤーからの排出量の方が同16.1%と大きい。

 トヨタはサプライヤーにもCO2排出量の削減を求め始めた。6月、日本経済新聞や中日新聞が、トヨタが部品メーカーに対し部品を作る時のCO2削減を求めたと報じた。主なサプライヤーに、21年の排出量を前年比で「おおむね3%削減」する目安を示したという。

 トヨタは「(3%削減の目安は)対外公表したものではなく、コメントを控える」としつつ、「CO2実質ゼロはトヨタだけでは達成できない。サプライヤーに基準や目安を示し、共に取り組もうと伝えた」と説明する。

 その説明会に参加した部品メーカーの環境担当幹部は「トヨタが示した目安は取引条件ではないもようだ。省エネ努力で生産時のCO2削減を続ける」と認める。

 トヨタは15年に発表した「環境チャレンジ2050」において、自社工場や、サプライヤー工場での部品の製造も含むクルマのライフサイクル全体のCO2排出量を、50年に実質ゼロにする目標を発表していた。

 ライフサイクルとは、クルマの生涯——金属やプラスチックといった素材の原料調達と生産、部品製造、車体組み立て、輸送・物流、走行、廃棄・リサイクルに至るまで――の、活動のすべてを指す。

 トヨタがここにきてサプライヤーに協力を求めた背景には、日本がライフサイクルの排出削減で、欧州を中心に海外の自動車メーカーと比べて後れを取っていることがある。

 トヨタの岡田CPOは「(ライフサイクル排出削減で)先行する欧州に、クルマを輸出できなくなってはならない」と危機感を示した。

トヨタ高岡工場 ハリアー生産の様子(2020年6月)
(写真:トヨタ自動車)