欧州拠点の高級車メーカーは、自社工場のCO2実質ゼロを残り数年で完了する段階に達している。BMWは21年中、ダイムラーのメルセデス・ベンツは22年までに全工場を実質ゼロにする。フォルクスワーゲンは23年までに欧州域内の工場で再エネ電力100%に切り替え、30年までに中国を除く世界の工場に拡大する。同社傘下のポルシェは、ドイツ工場で実質ゼロを達成した。

 サプライヤーとの協力でも欧州勢は先を行く。フォルクスワーゲンは、30年にクルマ1台のライフサイクル排出量を18年比で40%削減し、50年までに実質ゼロにする。

 メルセデス・ベンツは39年までに新車のライフサイクル排出量を実質ゼロにする。CO2ゼロの製鉄技術を開発しているスウェーデンのベンチャーの株式を取得した他、サプライヤーに排出削減を要請する方針を示し、対応できない場合は発注を見直すと明らかにしている。

 欧州勢は、日本とは段違いのスピードで明確なロードマップの下、ライフサイクル排出量の削減を進めるとみられる。背景には欧州委員会がライフサイクル排出量を基にEU域内での自動車販売を制限する制度の導入を検討していることがある。先行して24年には、蓄電池を対象とする制度がEU域内で始まる。

 制度を通じて、欧州委員会や欧州企業は数万〜10万点にも上るという電気自動車(EV)部品や素材の生産工程と、CO2排出量の把握や管理、削減に関する信頼性の高いデータを収集するだろう。これを基にEUが、欧州車が優位に立ちやすいルールを策定し、輸入車にも適用すればEUルールが世界標準になると予想される。世界市場で欧州車が評価されて選ばれ、日本車はその後塵を拝することとなりかねない。総額約16兆円(18年実績)に及ぶ日本の自動車輸出による稼ぎが目減りする。

 欧州だけではない。昨年6月、米フォード・モーターが50年のCO2排出実質ゼロを宣言。今年1月には米ゼネラル・モーターズが40年までに達成すると続いた。世界の自動車メーカーが、ライフサイクルでのCO2削減競争に突入した。トヨタがライフサイクル排出削減でねじを巻き始めたのは、それが世界市場でクルマを売る必定条件になったからだ。

 日本勢が手をこまぬいているわけではない。トヨタなどはサプライヤーと数十年にわたり、コスト削減の目的で自社向け部品のエネルギーや素材の消費量を把握し、改善を続けてきた。これはサプライヤーの製造時のCO2排出量の把握に直結する。部品業界はライフサイクル排出量を算定する地道な作業を続けている。

日本が巻き返す2つの条件

 ただ、前出の部品メーカー幹部は「省エネし尽くした我々が、今から積み増せる削減効果は小さい」と話しこう続けた。「電力会社からCO2ゼロ電力を妥当な価格で調達できれば削減効果は高まる。国のエネルギー政策について声を上げるべきだ」。

 トヨタの豊田章男社長も、サプライヤーの切実な思いを知り抜いた様子で電力供給の課題を訴える。4月22日、日本自動車工業会会長として臨んだ記者会見では、豊田社長が「政府への要望として、EV製造などの輸出産業に、再エネ電力を優先的に供給するような施策をお願いしたい」と、率直に話した。

 サプライヤーの省エネと改善は重要である一方、それだけでは世界の競争のスピードに追い付けない。この事態を日本勢が巻き返すには、大きく2つのことが必要になる。