1つ目は、金属やプラスチックなど化学製品、セメントといった素材の脱炭素化に向けた研究開発を急ぐことだ。鉄鋼の製造プロセスでは、CO2排出をゼロにしながら新興国の成長と需要増を賄える規模を生産できる技術は今、存在しない。研究開発で日米欧は横一線に並んでいると言っていい。ルールづくりでEUが先を行こうと、素材が脱炭素で優位に立てば、日本製が選ばれ続ける理由になる。

 今年3月、日本製鉄の橋本英二社長は中長期経営計画説明会で「他国に先駆け、前人未踏の超革新技術にめどを付ける」と話した。また5月、JFEホールディングスの柿木厚司社長も中計説明会で「脱炭素化しなければ生き残れない」と話した。自動車向け鋼板を供給してきた日本の鉄鋼業界にとって、CO2排出ゼロの製鉄技術は、欧米や中国の競合に打ち勝つのに欠かせないものだ。

 高炉による製鉄工程では、石炭由来のコークスで鉄鉱石を還元する時にCO2を排出する。世界の鉄鋼業界は将来的にコークスを使わず水素に置き換え、CO2排出ゼロで鉄を作る直接還元鉄(DRI)製造の研究開発を進める。水素製鉄の実機化は40年代とみられる。

 一方、自動車業界はライフサイクル排出量を50年までに段階的に減らす。鉄鋼業界は水素製鉄開発の完了まで、橋渡しとなる別の技術で、CO2低排出の鋼板供給体制を急ピッチで整える必要がある。技術革新を要する開発を、複線的に進めるのが各社共通の方針だ。

 その過程では、高炉や電炉、CO2回収やメタン合成の設備、メタンや水素のパイプライン、いずれは水素還元設備まで様々な技術が製鉄所に併設される。「これまでの製鉄所の概念を変え、すべてをつくり変えなければならない」。日本製鉄の鈴木英夫常務執行役員は、脱炭素技術導入の規模感をこう話す。

 2つ目の条件は、取りも直さずCO2排出が少ないかゼロの電力とエネルギーを、製造業が安定的に安価に、大規模に利用できるようにすることだ。

岩手県葛巻町で20年12月に運転を開始したくずまき第二風力発電所。発電所全体の出力は4万4600kWで22基の風車が並ぶ
(写真:Jパワー)

 国のエネルギー基本計画の策定を待たず、電力・エネルギー業界は、30年の温室効果ガス排出量の削減と50年の実質ゼロ実現へと目標を掲げ、石炭をはじめとする化石資源の利用縮小と、再エネなどCO2ゼロエネルギーの採用拡大、水素やCCUS(CO2回収・利用・貯留)という次世代のインフラ構築を進める。そして、これら新しいエネルギーを活用しながら収益を上げ、長期で持続可能に成長するための戦略や計画を描いている。

 ただ、国内では、太陽光発電は再エネ電力固定価格買い取り制度(FIT)の導入後、効率的に収益を上げられる適地は開発が進み、今後は当初のような収益性を見込めない。国を挙げて開発を急ぐ洋上風力発電も、日本近海では年間を通じて十分な収益を得られる風況に乏しいという研究成果もある。

 CCSや水素の採用も、現在のエネルギーコストと同等まで価格を引き下げるには、もう数段階の技術革新やサプライチェーンの改善が要る。

 企業が打ち出した温室効果ガス削減目標や、これをビジネス機会と捉えた収益計画の実現は、決して簡単ではなく、いばらの道と言える。原発再稼働が進めば、低コストのCO2ゼロ電力の供給拡大を期待でき、企業は技術革新に集中しやすくなる。だが、いつ再稼働が見込めるか不透明だ。

 残り30年で世界が脱炭素化に急速に向かう中、日本の産業が競争力を発揮できるか。国が企業の取り組みを国が束ねられるかにかかる。

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写真:Getty Images/Koji Aoki/Aflo

 7月8日発行の『日経ESG』の最新号(2021年8月号)では、日本企業による脱炭素戦略をリポートする特集記事「トヨタ、JERA、丸紅──日本総力戦 脱炭素競争に勝つ」を掲載しています。