ESGブランド調査2020取材班
約2万人にESGの視点から企業のブランドイメージを聞く「ESGブランド調査」。2000年から継続してきた「環境ブランド調査」の対象範囲を「環境(E)」だけでなく、「社会(S)」や「ガバナンス(G)」まで広げ、「インテグリティ(誠実さ)」の項目を加えた。第1回の調査結果でキリンが第4位を獲得した。環境、社会、ガバナンス、インテグリティの全てでバランスよく高評価を得た。社会課題に正面から向き合う企業姿勢が共感を呼ぶ。
キリンに対する評価結果から読み取れるのは、「公正」「誠実」という企業イメージだ。それは、インテグリティの「広告やマーケティングが適切」(1位)、ガバナンスの「危機管理が徹底、不祥事が起きにくい」(5位)、「贈収賄や脱税の防止、虚偽の報告をしないなど公正な事業を実施」(7位)などに表れている。

自由意見でCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)についての記述がすべての企業ブランドの中で最も多いのも特徴だ。
2019年2月、キリンは長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」を策定し、「世界のCSV先進企業」を目指すと宣言した。同時に、CSVの重点課題である「健康」「地域社会・コミュニティ」「環境」「酒類メーカーとしての責任」のそれぞれについて非財務目標「CSVパーパス」を策定した(下の図)。
パーパスを軸にブランド展開
欧州では、企業としての存在価値(パーパス)をアピールする「パーパス・ブランディング」が1つの潮流になっている。キリンも「CSVパーパスの発表以降、それを意識したブランディングを展開している」とCVS戦略部の草野結子氏は話す。
代表例が、19年の夏以降、「これまでにない規模で大々的に展開している」(草野氏)アルコールの有害摂取根絶キャンペーンである。最も重視するパーパス「酒類メーカーとしての責任」を強く意識した取り組みといえる。
「飲酒経験の浅い若い世代に向けて、アルコールの過剰摂取による健康被害についてSNS広告を使って訴えた。当社にとって一見ネガティブに思えるキャンペーンだが、良くないものは良くないと正直に伝えることが、酒類メーカーとしての責任と考えている」と、ブランド戦略部の山田朗子氏は狙いを語る。
結果的に、SNS広告の視聴数は目標を大幅に上回った。山田氏は「若い世代の関心を集めることができた」と総括する。
自由意見でも「消費者のことを第一に考えている」「健康促進のための商品開発や様々な取り組みが印象的」という記述が見られた。アルコールの有害摂取という社会課題に真摯に向き合う姿勢が、キリンの「公正」「誠実」というブランドイメージに結びついているようだ。
キリンは、社会分野では特に「社会や地域への貢献活動」(4位)の評価が高い。これをCSV経営の文脈で実践しているのが、岩手県遠野市と連携して進めているまちづくり「ビールの里構想」だ。
「高齢化や地域の過疎化など、国内のホップ農家を取り巻く状況は深刻。そうした社会課題を解決すると同時に、日本産ホップを生かしたクラフトビール市場の活性化に取り組んでいる」と草野氏は話す。
18年に遠野市が設立した農業法人「BEER EXPERIENCE」に出資し、ホップの生産拡大に本格的に乗り出す。ドイツの先進的な栽培技術を導入することで生産効率を高めると同時に、ホップをクラフトビールのブルワリー(醸造所)に外販するなど市場開拓を進めている。
農家の収益力を高めるため、つまみ野菜である「遠野パドロン」の栽培も始めた。また、地域に人を呼び込むため、「遠野ビアツーリズム」などのイベントも実施している。