国際通貨基金(IMF)が2021年4月6日に公表した「世界経済見通し」によれば、21年の世界経済全体のGDP成長率予測はプラス6.0%になるという。これに遡ること2カ月前、英財務省が公表した報告書「生物多様性の経済学:ダスグプタレビュー(The Economics of Biodiversity: The Dasgupta Review)」の主張には大きなインパクトがあった。

 それは、GDPは世界で劣化しつつある自然資本(※)を適正に評価しておらず、持続「不可能」な成長を促す指標である、という指摘だ。主著者のダスグプタ教授(ケンブリッジ大学経済学部)は、政策決定者が自然資本と生態系サービスから得られる便益を適正に評価し、それらを全ての国の国民経済計算に組み込むことを推奨している。

※自然資本とは、人々に一連の便益をもたらす再生可能/非再生可能な天然資源(植物、動物、空気、水、土、鉱物など)のこと

損なわれる自然資本、ビジネスへの影響

 新型コロナウイルス感染症は、過去に世界で感染が拡大したエボラ出血熱、ジカ熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)と同じく動物由来感染症(動物から人間に移る)と言われている。一般論として、動物由来感染症は農業の集約化、人の定住エリア拡大、森林や他の動物生息地への人間活動の侵入などの環境変化の際に場合に多く出現する。つまり人による経済活動とそれに伴う負の外部性が、未知の病原体との接触、感染症の発生、拡散を増長した可能性が高いということだ。

 ワクチン接種が進み、新型コロナウイルス感染症が落ち着いても、今後新たに別の感染症の発生・拡大を引き起こす可能性は十分にある。世界経済フォーラムによれば、世界のGDP半数以上に相当する44兆ドルの経済価値の創出プロセスは、中~高程度に自然に依存しているという。つまり、自然資本の乱用や生物多様性の消失によるビジネスへの影響が甚大なものになるということだ。人が知らないところで未知の医薬品原料の生物が消失しているかもしれない。サンゴの白化や熱帯林の消失など、既に負の影響が顕在化している事象も増えている(下表)。

出所:著者作成
出所:著者作成