求められる「TNFD」

 世界中で気候変動対策とその情報開示が進む中、新型コロナウイルスの発生、感染拡大は自然資本の不適切な利用によるリスクを人々に見せつけることになった。結果、自然資本の適正利用や生物多様性の保全が、経済活動の継続には避けられない条件として再認識されつつある。その最初の一歩がTCFDに並ぶ、TNFD(Task Force for Nature-Related Financial Disclosure:自然関連財務情報開示タスクフォース)だ。

 20年に生物多様性保全に関する情報開示標準化の必要が指摘され、国連開発計画、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP-FI)、世界自然保護基金(WWF)、Global Canopyという国際機関やNGOにより、自然資本・生物多様性を中心としたリスク・機会の情報開示フレームワークの策定を目指すイニシアティブが設立された。以後賛同者を増やし、22年のTNFDの正式な提言のリリースに向けて現在議論が進められている。

 リリース後に金融業界でどのようにそれが広がっていくかは未知の部分も多いが、TCFDが辿った道と同じように徐々に主流化し始めれば、生物多様性の保全が、今後の企業評価と投資意思決定を左右する重要な視点の1つして定着するはずだ。

 21年には、前年から複数回にわたって延期された第15回生物多様性条約締約国会議(CBD-COP15)の開催も10月に中国で予定されている。こうした各国の交渉舞台においても今後、金融や企業活動と生物多様性の関係性を巡っては、コロナ禍を経て、より深い議論が進むはずだ。国内でも21年度中には30年までの次期生物多様性国家戦略が公表される予定にもなっている。

価値の大転換

 著者はこの数年、SDGsやESG投資に関し、国内外の様々な調査レポートに目を通してきた。また、機関投資家と企業とのあいだの議論を垣間見てきた。実のところこれまでは、SDGsの「目標14:海の豊かさを守ろう」「目標15:陸の豊かさを守ろう」といった生態系保全を掲げる目標に関心を示す投資家や企業は必ずしも多くはなかった。その理由は、単純に「ビジネスとして、投資として、あまり儲けにはつながらないだろう」という感覚があったからではないだろうか。

 22年以降、TNFD提言が出ると、この価値観は一変するはずだ。今まで毀損させてきた自然資本の恩恵に多くの投資家、企業が気付かざるを得ない。経済活動を支える土台としての生態系サービスの価値に目をつぶることができないことになる。

 事実、ESG投資の文脈においても、森林や海洋といった分野でのインパクトを重視した投資行動は国内外で着実に増えている。世界の金融機関、機関投資家は、環境破壊を招き生態系サービスを低下させる経済活動を支援するのではなく、むしろ保護・保全が促進するように企業に働きかける重要な役割を担っていくことになるだろう。

SDGsの目標14、目標15は、いずれも自然資本の持続可能な利用を目指す