セカンドパーティ・オピニオンを更新

 21年6月、JICAからの要望に基づき、これまでJICA債のフレームワークに対して、提供していたSPOを更新することになった。その背景は以下のようなものだ。

 まず、マクロな外部環境の変化として急速な脱炭素化があげられる。2016年のパリ協定発効後も気候変動問題は一向に改善の道筋が見えておらず、悪化の一路を辿っている。2020年初頭に始まったCOVID-19の世界的パンデミックでは、様々なレベルでの社会的格差が拡大し、世界経済が大きく停滞した。その中からの復興として、世界各国でグリーンリカバリーや脱炭素施策が求められる中、大量の温室効果ガスを排出する石炭火力発電事業に対する反対活動が急速に高まった。こうした急速な脱炭素化は先進国内の議論にとどまらず、途上国支援といった政府開発援助(ODA)の文脈でも同様に考慮していかなければならない。

 次に、ESG市場の成長に伴うグリーンボンド原則等の各種原則類の詳細化と多様化である。国内外のESG市場への関心の高まりから、投資家および発行主体の数・発行金額は右肩上がりに増加している。結果、2014年当初にICMAのグリーンボンド原則しか設定されていなかった状況から、ソーシャルボンド、サステナビリティボンドなど様々な資金使途が定義され、昨今では資金使途を限定しないサステナビリティ・リンク・ボンドなどKPI管理型の資金調達まで手段が多様化している。このような変化を鑑みても、発行主体のフレームワークおよび、それに対するオピニオンの内容も再考する必要があった。

 最後に、サステナブル・ファイナンスを巡る潮流として、発行主体の資金使途における評価に加え、発行主体の組織としての包括的な目的や戦略等と資金使途が整合しているかが、投資家から重視される傾向になっていることがあげられる。このことは、ICMAの原則類にも更新され明記されている。そのため、JICAの発行主体としての組織方針と資金使途の適格基準・除外基準との整合性を改めて確認することが適切と考えた。

(出所:SPO「ソーシャルボンドとしてのJICA債」より抜粋)

 このような背景のもと、JICAより資金調達の適格基準の事業から石炭火力発電所事業を除外することを伺い、その他の追加情報も含め、今次SPOを更新した。石炭火力発電所事業の除外基準については、以下のような意見を提示した。

(前略)本オピニオンは、ソーシャルボンドとしてのJICA債の社会的側面における特性とソーシャルボンド原則との整合性をレビューするものである。しかし、石炭火力発電事業による大気汚染による健康被害や、気温上昇などの社会へもたらす負の影響を鑑みれば、ソーシャルボンドであってもその資金使途が同事業へ向かうことは避けるべきと考える。よって、ソーシャルボンドのフレームワークでありながら、石炭火力発電事業をJICA債の使途の除外基準にしたことを歓迎する。(後略)

(出所:SPO「ソーシャルボンドとしてのJICA債」より抜粋)

 ICMAの原則類に共通する4原則に基づき評価を行い、最終的には「ソーシャルボンド原則が示す社会課題への対応を目的とした『ソーシャルボンド』の特性に従うものとして評価」した。そして、「ソーシャルボンドとしてのJICA債のフレームワークが改訂され、本オピニオンを更新し得たことは、更なるESG市場の信頼性の向上と透明性の確保に貢献し得る取り組みと考える」として、締めた。

ソーシャルボンドの今後

 16年のSPO発行時点で、現在のように市場が成長することは予想していなかったし、21年にこのような形でSPOを更新することになるとは考えてもみなかった。

 21年3月には、金融庁が有識者によるソーシャルボンド検討会議を設置した。既に原案は6月に公開され、8月に指針が出る(本原稿執筆時点で、原案パブコメ中)。現時点で国別・地域別のグリーンボンドガイドラインが出ている国はあるが、ソーシャルボンドのガイドラインを出している国はまだない。

 このような流れから鑑みても国内のソーシャルボンドは今後も増加が見込まれるだろう。特に期待されるのは、民間企業による発行だ。そもそも社会課題は、国や地域によって内容も捉え方も異なる。例えば日本の社会課題である少子高齢化問題は他国では問題になっていない。だからこそICMAのソーシャルボンド原則に準拠しながらも、こうした日本版のガイドラインが公開されることには意義がある。

 今後も市場の成長に伴い、発行体に求められる情報開示はより具体化・厳格化していくはずだ。そして、外部環境の変化によっては、JICA債のSPOのように更新が必要となるケースも今後発生してくるだろう。ESG債の市場におけるダイナミックな変化にも置いて行かれないよう、今後も本市場の発展に向けて取り組んでいきたい。