「インパクト」という単語を目にすることが増えた。政策遂行、企業経営、事業活動、金融行動などによって、生み出された様々な影響や変化を語るときに「インパクト」という表現が用いられている。

 サステナビリティやフィランソロフィーの分野では、よく使われてきた単語だ。「インパクト投資」や「インパクト評価」、近年では、財務諸表に社会や環境へのインパクトを反映させる「インパクト加重会計」のような、インパクトを起点とした様々な考え方も生まれている。直近の政府や経済団体の動きを追いながら、なぜインパクトなのかを考察したい。

2022年「骨太の方針」

 2022年6月7日、岸田内閣は「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を閣議決定した。サブタイトルは「新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」だ。社会課題の解決に向けた取り組みそれ⾃体を付加価値創造の源泉として成⻑戦略に位置づけた。そこでは次のような記載がある(下線は著者による)。

“「成長と分配の好循環」による新しい資本主義の実現に向け、これまで官の領域とされてきた社会課題の解決に、民の力を大いに発揮してもらい、資本主義のバージョンアップ を図る。(中略)従来の「リスク」、「リターン」に加えて「インパクト」を測定し、「課題解決」を資本主義におけるもう一つの評価尺度としていく必要がある。
出所:2022年経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」から抜粋

 15年にSDGsが世界に公表されて以来、あらゆるシーンで「社会課題の解決による新たな市場創出」は言及されてきた。しかし、骨太の方針のような政策の根幹となる文書で、インパクトに焦点が当てられ、資本主義の評価尺度として「課題解決」が捉えられたのは初めてなのではないだろうか。

経団連も”インパクト指標”に注目

 骨太の方針にも呼応するように、22年6月10日に日本経済団体連合会は、提言「“インパクト指標”を活用し、パーパス起点の対話を促進する~企業と投資家によるサステイナブルな資本主義の実践~」を公表した。この背景には、企業と投資家のサステナビリティへの関心が高まっているにもかかわらず、ESG評価のチェック項目のような無機質なKPI(重要業績評価指標)に基づいた対話では、長期戦略やビジネスモデルの変革といった未来志向の議論につながらない、という課題認識があった。

 そのため、企業と投資家の対話をよりパーパス起点で進めていくためには新たな追加指標を検討する必要がある、として掲げられたのが、ここでいう“インパクト指標”だ。ここではGSG(The Global Steering Group for Impact Investment)国内諮問委員会の定義に基づき「事業や活動の結果として生じた、社会的・環境的な変化や効果を示す指標」とある。

 各種の国際的な指標やBloombergのESG関連データ、経団連のSDGs事例集などを踏まえ、84の指標例を抽出した。まず、社会課題の種類によらない課題横断的な「横断指標」として「財務に関する指標」「一般的な指標(雇用創出数など)」「スマート化に関する指標(生産性など)」の3つを挙げ、さらに「課題別指標」としてレジリエンスとヘルスケアに2分野での指標例が提示されている(下はヘルスケアの指標例)。ただ、提言はこれらの指標例をそのまま利用するのではなく、「あくまで参考例であり、各企業が自社のマテリアリティ等を踏まえて必要に応じて特定し、提示する」ことを勧めている。

■経団連のインパクト指標例(ヘルスケア)
■経団連のインパクト指標例(ヘルスケア)
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