(7月8日、安倍元首相が選挙演説中に凶弾によって倒れるというニュースに日本全体が衝撃を受けました。国内外で強いリーダーシップを発揮してきた元首相がこのような形で亡くなられたことに心より哀悼の意を表します)

 戦後最長となった第2次安倍政権(2012年12月~20年9月)では、その任期の長さにも比例し、経済や外交で、様々な政策展開があった。そのなかに企業や金融によるESG・サステナビリティへの配慮を後押しする政策があった。この間、企業のESG評価に携わってきた著者の立場からは、安倍政権が掲げた様々な政策が現在の業務に繋がっていると感じることが多くある。もちろん、サステナビリティに関しては、関連施策すべてが政権の成果というわけではない。急速に変化する外部環境や、外圧に対するレスポンスという側面もあっただろう。それでも、安倍政権下で日本国内のESGに関する認知や取り組みが大きく進んだといっても間違いではないだろう。改めて、ESGの視点からいくつかの主要な出来事を振り返ってみたい。

コーポレートガバナンスの強化

 12年12月に成立した第2次安倍内閣は「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起する成長戦略」を3本の矢とするアベノミクスを発表した。「成長戦略」の1つの柱がコーポレートガバナンス改革だった。14年2月には金融庁から日本版スチュワードシップ・コードが公表された。日本の機関投資家が投資先上場企業との対話などを通じて持続的成長を促し、顧客の中長期的な投資リターンの拡大を図ることを目的としたものである。そして、15年5月には、東京証券取引所からコーポレートガバナンス・コードが公表された。上場企業による独立社外取締役の選任や政策保有株の見直しを目的としたものである。そして、この2つのコードの存在を後押ししたのが、14年8月に経済産業省より公表された「持続的成長への競争力とインセンティブ ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトの最終報告書、通称 伊藤レポートである。企業の持続的成長を促すための投資家とのエンゲージメントを通じてROE(自己資本利益率)の向上を目指すものだ。

 こうした改革を、企業成長や経済活動活性化の観点から評価するには時期尚早かもしれないが、議決権の行使などによる機関投資家のエンゲージメント活動を活発化させたこと、取締役会改革を推進したこと、政策保有株の持ち合いが見直されつつあること、海外投資を促進したこと、など評価されている側面もある。一方で、コーポレートガバナンスのあり方は確かに変わったが、形骸化してしまったのではないかという問題意識を抱える企業も多く、機関投資家側でもコーポレートガバナンス報告内容をうまく活用できていないという声があるのも事実ではある。

女性の活躍推進

 「成長戦略」の柱で、最も積極的に光が当てられたテーマの1つが「女性活躍推進」だろう。アベノミクスはウーマノミクスという表現もあったように、13年の日本再興戦略では女性をわが国最大の潜在力とし、成長戦略に欠かせない存在と位置付けた。15年8月には「女性活躍推進法」が成立し、労働者数301人以上の事業主に自社の女性労働者の活躍状況と行動計画を公表が課された(22年改正で労働者数101~300人以内の事業主も対象)。女性活躍をテーマとした国際シンポジウムも数回開催され、15年8月にはUN Women(国連女性機関)がアジア発の拠点として日本事務所を開設した。その一方で、「3年間抱っこし放題」を前面に出した13年の育休支援策に対して「働く女性の現状をわかっていない」といった批判が集まり、16年には「保育園落ちた日本死ね」のブログ投稿が国会で議論されるなど、良くも悪くも待機児童問題への注目は格段に高まった。