2021年10月の岸田首相の所信表明後、「新しい資本主義」という単語をメディアでよく見るようになった。首相だけではない。新型コロナウィルス感染症に振り回され、世界各地で浮き彫りになった格差を目の当たりにして、資本主義をアップデートしたいと思う人が増えている。

 「共感資本主義」「里山資本主義」「公益資本主義」「ウェルビーイング」など、経済成長や収益目標達成の後回しにさせられてきた価値を掲げ、新しい資本主義のかたちを追求する考え方がこれまでも相次いで登場している。そして収益一辺倒だったベンチャー投資の世界でもその変化が起きている。

ESG重視型のファンド登場

 著者が所属するチームでは、長らく上場企業を中心とした大企業のESG評価に関わってきたが、最近では非上場企業の評価の機会もある。上場企業におけるESGの取り組みや情報開示が主流化、厳格化しつつある現在、これからは非上場企業、ベンチャー企業におけるESGの取り組みも徐々に進んでいくはずだ。

 国内のベンチャー投資業界でも変化が見られた。日本初のESG重視型グローバル・ベンチャーキャピタルファンド(VCファンド)として、キャシー松井氏らによる「MPower Partners Fund L.P.」が21年5月に設立され注目が集まった。6月には、ソニーグループのコーポレートベンチャーキャピタル(VC)である「ソニーイノベーションファンド」が、投資先のスタートアップがどれだけESG側面に取り組んでいるかを評価すると発表した。これ以外にもさまざまなVCが少しずつ、投資におけるESG側面への配慮をすすめている(下表)。

■ ESGに注目する国内のベンチャー投資
■ ESGに注目する国内のベンチャー投資
出所:公開情報より著者作成

先行する海外

 海外での動きは先行しており、ベンチャー投資におけるESG側面への関心は高まりを見せている。著者が、海外のレポートを中心にレビューしたところ、「なぜ今か」という理由は明白だ。新型コロナウィルスの感染拡大、Black Lives Matter(黒人人種差別への抗議運動)による人権意識の高まり、そして世界を覆う気候危機、の3つが、投資家のベンチャー投資におけるESG側面への関心を加速させている。

 21年4月、アーリーステージのベンチャー企業を中心に世界で活動するVCの500 Startupsは、投資先93社のESGに関する調査結果をまとめたリポートを発表した。同社は、スクリーニング・投資・モニタリングの3段階のあらゆる側面にESGの視点を取り入れている。リポートでは、「ESGポリシーは人材や消費者を惹きつけ、規制コンプライアンスを強化し、市場へのアクセスを拡大する機会」と結論付けている。驚くべきは、投資される側の約8割が「ESGの視点は事業活動における機会創出と、リスク管理の観点で有益だ」と捉えていることだ。