自己防衛の誘発が問題

 発達心理学の父と呼ばれる心理学者ジャン・ピアジェ氏は、「小さい頃に能力を伸ばすことを無理に強制されていた場合、20歳を過ぎるあたりで成長がピタリと止まってしまう現象」を報告しています。「ピアジェ効果」として有名です。

 学ぶ喜びなど、自身の内面から得られる内発的報酬ではなく、他人からの評価や、宿題をやらないと罰を与えられるといった外発的な要素で誘導され続けると、次第に他者の価値観に振り回されるようになり、主体性が低下します。失敗を学びの材料ではなく避けるべきものと感じるようになり、挑戦もしなくなります。

 ハーバード大学教育大学院のカート・フィッシャー教授はこう述べています。「20年間近く外発的に動機付けられた学校教育は、未だに不愉快な記憶の源になっているので、多くの人々は学校を離れると、やれやれと学習を投げ出してしまいます。彼らの注意は長年にわたって教科書や教師によって外から操作されてきたのであり、彼らは卒業を“自由の第一日”と考えてきました。しかし、象徴的能力を諦めた人は、決して真に自由であるとは言えません」。

 仕事の逆説でも、これと同じ構造が形成されていると言えるでしょう。特に日本の社会は完璧主義で、恥の意識や失敗へのバッシングも強く、自己防衛を誘発しやすい文化的な傾向があるように思います。

 仕事から本来得られるべき喜びを得るためには、自己防衛を誘発せずに内発的報酬を高め、やらされ感ではなく主体性を生かして自分で選択できる構造をつくる必要があります。

 丸井グループでは十数年前から、あらゆることで自分の意志を表明して物事を選択する「手挙げの文化」を醸成してきました。重要な会議(中期経営推進会議)への出席や全社プロジェクトへの参画、人事異動、そして昇進・昇格さえも、自ら手を挙げないと何も始まらない仕組みです。主体性を生かす文化はこの10年間でかなり浸透し、手を挙げた社員はグループ全体で87%となりました。

 一方、仕事の楽しみや喜びを感じている社員の割合は全体の約6割で、自己防衛を減らして仕事の喜びを高めることは今後の課題と捉えています。

 最後に、インドの詩人ラビンドラナート・タゴール氏の言葉を紹介します。

 「私は眠り夢を見る、生きることがよろこびだったらと。私は目覚め気づく、生きることは義務だと。私は働く─すると、ごらん。義務はよろこびだった」