信頼が人々の関係性を高め、共に困難に立ち向かう力となって社会は発展してきた。世の中の分断が深まる今こそ、他者との信頼をいかに築くか考える時である。

 『サピエンス全史』でユヴァル・ノア・ハラリ氏が述べているように、社会は信用と信頼によって発展してきました。1602年にオランダで設立された東インド会社は、人々が信用に基づき共同出資して利益を分配する仕組みをつくりました。これが株式会社の礎となり、経済を飛躍的に発展させました。現在に至るまで、信用は社会が発展する鍵となってきました。

 制度や仕組みの信用だけでなく、人間関係上の信頼も重要です。英オックスフォード大学名誉フェローで世界的な科学・経済啓蒙家のマット・リドレー氏は著書『繁栄』において、人々が互いに信頼し合うほど、社会は繁栄すると述べました。ある国の中で、他者が信頼できると考える人の割合が15%増えると、その後、毎年1人当たりの所得が1%ずつ増え続けるとの調査分析を紹介しています(この調査では他者を信頼する人の割合はノルウェー65%、ペルー5%でした)。

 人々が協力し合う制度や仕組みの下では「交換」が盛んになり、そうでない仕組みの下では「没収」や「工作」が横行するのです。不実な権力者が表れるとしばしば、社会に不信が渦巻くこともあります。しかし人類繁栄の歴史は大きく見ると、双方が恩恵を得るノン・ゼロサム取引の発見に尽きると、米国のジャーナリストであるロバート・ライト氏は述べています。

 右肩上がりの成長を目指すのではない成熟経済においても、他者との信頼関係は人々が心豊かに暮らせる世界を創り、価値を生み出す基盤になります。

利他志向の研究

 米国の組織心理学者アダム・グラント氏は、自分の知恵やアイデアなどを積極的に他者と分かち合おうとするギバー(giver:与えることを優先する人)と、テイカー(taker:受け取ることを優先する人)では、長期的に見ると利他志向型のギバーが社会的に最も成功すると述べています。ただし、ただ与えるだけではなく、こうした人々は戦略的であり、常に有意義な多様性を求め、搾取されていると感じたら関係を断つ賢さも持ち合わせています。他者利益と自己利益の両方に関心を持ち、他者に多くを与えることによって、自分も中長期的に利益を得るのです。

 同氏は著書『GIVE&TAKE「与える人」こそ成功する時代』で、ギバーの研究を紹介しています。

 ベルギーで実施された600人以上の医学生の調査では、ギバーの学生たちは入学した最初の年次は成績が振るいませんでしたが、2年次には他の学生の成績をやや上回りました。6年次にはギバーがかなり高い成績を修め、最終学年の7年次には将来を嘱望される医師の卵として躍進していました。進級するにつれ、教室の授業ではなく実習や患者の治療などチームワークやサービスによって成績が決まるようになり、人と協力して患者を気遣うことの得意なギバーが有利になったのです。

 それでは、ビジネスの世界で利他志向のギバーになり、中長期的に自らも共に利を得るとは、どういうことでしょうか。