Well-beingやしあわせという漠然とした概念は、脳の機能部位によってその要素を整理できる。しあわせの各要素が調和し、人々がそれを高められるよう、産業医として支援していきたい。

 Well-being(ウェルビーイング)とは、16世紀のイタリア語「benessere(ベネッセレ)」が始源で、「よく在る」「よく居る」という状態を表す概念です。「しあわせ」と訳されることもあります。

 近年、Well-beingが注目される背景には、物質的にも経済的にも豊かになっているのに、多くの人が生きづらさを感じている現状があります。経済社会のあり方や地球との付き合い方を再考し、人々が実感としての豊かさやしあわせを感じられる、調和した社会を創ることが求められているのだと思います。

「しあわせ」の要素とは

 人は様々なことにしあわせを感じるため、こうした概念を聞くと、何か捉えどころのないものと感じる方も多いかもしれません。私たち医師のグループは、人のしあわせ、Well-beingの要素を、脳の機能部位に基づいて分類しています(下図)。生命にとって根源的な機能から高次の機能へと、便宜的に①~⑤に分けています。この図で捉えると、様々なしあわせの要素を、脳の機能部位と照らして整理することができます。

 例えば、「お腹いっぱい食べたときの幸せ」は①に該当します。視床下部を中心とした、食べる、寝る、生殖行為など、生物としての根源的な欲望に関わる部位です。「行動に没頭する幸せ」は④で、主に大脳が関係しています。「目的や意味を感じることの幸せ」は⑤で、主に脳の前頭葉が関係しています。

 「ポジティブ心理学の父」と呼ばれる世界的な心理学者マーティン・セリグマン博士は、この①、④、⑤に関係する3つのしあわせと、人生の満足度について解説しています。それぞれを「快適な人生」「喜びのある人生」「意味のある人生」と表現し、この3つの要素の高さは健康と寿命に相関し、仕事の生産性や顧客満足といった多くの仕事の要素にも相関していると言います。

 ところが、人生の満足度との相関を調べてみると、「快適さ」はあまり相関せず、「行動に没頭する喜び」が強く相関し、「意味を感じられること」が最も強く相関していると述べています。長期的な人生のしあわせや、自分の人生に対する満足度合いに関係するのは、より高次の脳機能に関わるしあわせの要素だと言えるでしょう。

■ しあわせ・Well-beingの6つの要素
脳の機能部位に基づき、生命にとって根源的な機能が関係する要素(①)から、より高次の機能に関係する要素(⑤)に向かって、解剖学的な位置関係に合わせて下から番号が振られている。脳の解剖学図を表示すると煩雑になるため割愛している。⑥の「成長・進化・自律」は、①から⑤のすべてに関係するため、縦に記載している。③と④は並列的である。世界的な心理学者のM.チクセントミハイ教授は、①と②は自己防衛を誘発しやすいと述べている