人と組織を活性化するには、戦略的に人々の「情動」を喚起する必要がある。ただし、ひたすらポジティブになれば良いわけではなく、特性に合わせた使い分けが重要だ。

 「変化の時代に生き残るには、チャレンジ精神が大切」「物事をポジティブに捉えよう」などと社員に呼びかけても、失敗を恐れてなかなか挑戦しない。そんな憂いを抱える企業リーダーは多いと思います。なぜ多くの人がそうなのか、今回はその本質を見ていきます。

ネガティブ情動の影響は大

 「コインを投げて表だったら15万円もらえるが、裏だったら10万円失う」という賭けがあったら、あなたはやりますか。一般にやらない人の方が多いといわれます。今度は、次の2つのうち必ずどちらか1つを選ばなければならないとしたら、どちらを選びますか。

  • A:6万円を必ず支払う(損失確定)
  • B:80%の確率で10万円を支払うが、20%の確率で何も支払わなくてよい

 期待値を考えればBは8万円の損なのでAを選ぶ方が得なのですが、一般にBを選ぶ人が多いです。損失が確定するのがイヤで、損をしない可能性がある選択に「打って出る」傾向があるためです。

 最初の賭けでは、それが確率論的に得なのにやらない。次の賭けでは、確率論的に危険な方に突っ込む。これは無意識のネガティブ情動の影響を受けた時の人間の心理特性です。

 心理学者でありながらノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏が提唱したプロスペクト理論によれば、人は確率論通り、合理的には行動せず、状況や条件によって確率を歪めて価値を判断する傾向があるのです。

 経営上の判断ではどうでしょうか。成功する確率があるのに、リスクを嫌って行動せずに大事なチャンスを逃す。苦しい状況に追い詰められると損切りができず、危ない選択に突き進んでしまう。

 プロスペクト理論から、人間がどのくらいネガティブ情動の影響を受けやすいか見てみましょう。例えば10万円もらったときの心理的な価値が「1」だとすると、20万円もらったら「2」になるかというと実際は1.5くらいです。

 逆はどうでしょうか。10万円損をしたら「1」ガッカリかというとそうでなく、もらった時に比べて2倍くらいガッカリする。これは米国人の実験データです。人によって違いはありますが、日本人は守りに入りやすく3倍くらいだろうと言う研究者もいます。ポイントは、「人はネガティブな情動に2倍以上、強く影響を受けやすい心理傾向がある」ということです。

得意分野が違う

 情動とは、「生存にとってネガティブな要素から遠ざかり、ポジティブな要素に近づくよう心身をセッティングして行動を起こさせるもの」です。不安や恐怖といったネガティブ情動も、生存のためには必須なのです。単純にポジティブが良い、ネガティブが悪いというものではなく、それぞれの特性(得意分野)が異なります。「必要な場面で、必要な情動を喚起できる」ことが重要です。

 ネガティブ情動の得意分野は、「防衛」です。短期の対応、危機から遠ざかる行動、失敗の回避に効果的です。計算ミスを発見する課題に対して、しかめっ面で作業をした群の方が、ニコニコして作業した群よりも失敗の発見率が高いという実験結果もあります。