複雑さを増す社会では、人々の多様性を力に換えることが重要になる。「違い」を調和に導く能力や仕組みがなければ、分断に向かってしまう恐れもある。

 価値観の違いや、性別、人種などによる分断や差別は、依然として大きな社会課題です。その一方で、多様な人々が集まり、違いを力に換えて発展している組織もあります。そうした組織が備えている能力や仕組みとはどのようなものなのか。今回から2回にわたってお話しします。

 分断か調和か、それを方向づける人間の知性や組織のあり方について、様々な研究が行われています。その一部を紹介しましょう。

「複雑さ」に対応する知性

 生涯発達理論を提唱したドイツの心理学者ポール・バルテス博士は、困難や複雑な状況に対応する時に私たちを助けてくれる能力を「適応的知性」と名付けました。例えば、自分の行動がもたらす長期的な結果を予想する能力、不確実さや曖昧さを楽しみ、可能性やチャンスにつなげる能力、価値観の違いを認識し、分断でなく調和に導く能力などです。これらの能力はその人個人の生きやすさだけでなく、その人が所属する組織や社会の生きやすさにもつながります。

 こうした適応的知性は、どのような段階を経て発達するのでしょうか。『なぜ人と組織は変われないのか ハーバード流 自己変革の理論と実践』(英治出版)の著者、米ハーバード大学のロバート・キーガン教授は、実地研究に基づき、成人の適応的知性の発達段階を4つに分類しています。

 人は、人生の中で困難に向き合い失敗を重ねながら、この知性の段階を徐々に高めていきます。ただ、多くの人は途中の段階で発達が止まっており、各段階の人数の比率が報告されています。4つの発達段階の特徴を順番に見ていきましょう。

 第1段階は、利己的知性(成人での割合約10%)です。この段階の人々は、「自分にとっての快・不快」に基づいて善悪を決める傾向があります。人や物事を「敵か味方か」「白か黒か」に分けるのです。そのため、他者との調和が難しく、ストレスがかかると分断に向かいます。

 第2段階は、環境順応型知性(同50~70%)です。帰属する組織のルールやマニュアル、暗黙のやり方に忠実に行動します。集団内の序列を通して自己(自我)を形成しており、順応の対象は権威です。帰属する組織での「優劣」「勝ち負け」に基づき善悪を決める傾向があります。

 第3段階は、自己主導型知性(同20~40%)です。組織や社会にある価値観を理解した上で、それへの盲目的な順応を脱却し、よりよい物事の捉え方や行動を模索します。自律的に考え、行動する知性です。

 第4段階は、自己変容型知性(同1%未満)です。自分の価値観の限界を認識し、あらゆるシステムや秩序は完璧でないという前提に立って物事を見ています。自分の視点を柔軟に転換し、他者の立場や環境の状態など、様々な方向から物事を理解しようとします。こうした知性を持つ人々は、相反する考えを調和に導くことができます。また、その視点を将来世代や環境全体にまで広げ、対象と自己を切り離さず一体のものとして考えようとします。他者を幸せにし、結果として自分も大きな幸せを得ていく知性です。

 多くの人が幸せを感じられる持続可能な世の中を創るには、第3段階や第4段階の適応的知性が必要になってくると思います。この知性は言うまでもなく、組織のみならず国や社会の発展に関係します。

■ 適応的知性と社会での「生きやすさ」の関係
「適応的知性」の段階と、社会での生きやすさとの関係を示した。発達段階が高い程、複雑な状況での対応力が高く、自分も他者も生きやすい社会に近づく。適応的知性は人生を通じて発達するが、ほとんどの人は第4段階まで到達できない(成人の第4段階の割合1%未満)
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