困難を疑似体験することを通じて、適応的知性に関わる脳の領域を繰り返し使う。調和を導く能力の発達を促す取り組みの一例を紹介する。

 前回は、分断か調和かを方向付け、組織や社会の発展を左右する人間の「適応的知性」についてお話ししました。適応的知性とは、困難な状況や複雑な変化に対応する能力を指します。

 今回は、この能力の発達について考察します。社会で創造性を発揮したり、分断を調和に導く行動をしたりした人が、どのような子供時代を送り、適応的知性を発達させる素地を作ったか。まずはその研究を見てみましょう。

ルールによる思考停止

 ある研究によると一般的な親は子供に、「何時に寝る」「何時に宿題をする」など、平均で6つのルールを課しているそうです。ところが、創造性の高い子供の家庭のルールは平均で1つ以下。しかも、特定のルールではなく道徳的価値観に重点を置き、それに基づいて行動するように指導していると、心理学者のテレサ・アマビールは報告しています。

 他に、米国の創造性豊かな建築家と、高い技術はあるがそれほど創造的ではない建築家を比較したドナルド・マッキノンの研究があります。

 創造性豊かなグループの親は、子供に注意をする際にその論理的根拠を説明しており、大人になるにつれて「自分で自分なりのルールを作り上げなさい」と伝えていました。組織心理学者のアダム・グラントは、こうした理性的な子供への接し方は、慣例を打ち破る創造的な人の親によく見られる特徴だと述べています。

 社会学者のサミュエル・オリナーとパール・オリナーは、ユダヤ人が大量虐殺されたさなか、ユダヤ人を救った非ユダヤ人の調査・研究をしました。当時の社会規範を理解した上で、なおも自分自身の価値基準に従って行動した人と、他の住民とを比較したのです。

 両者の唯一の違いは、子供の頃、親から注意を受ける際に、なぜ注意するのか、その理由を説明されていた点でした。自分の行動が他の人に及ぼす影響を考えるように、いつも親から促されていたとのことです。

 創造性の高い建築家の調査と同じく、ただ社会のルールに盲目的に従って行動するのではなく、「自分の頭で考え」、価値観と行動を「選び取り」、自分の行動の結果を「客観的に評価し」、自己変容を「繰り返す」。これが、適応的知性の発達の素地を作っていました。

 ルール(規則)ベースではなく、プリンシプル(原則・理念)ベースで考える訓練がなされていたということだと思います。

仕組みが適応的知性を高める

 しかし、子供時代の画一的な教育や規則などが影響し、思考停止に陥ってしまっている人も多くいます。大人になってから、自ら考え行動し、他者の思考を理解した上で調和に導く能力を高めるには、どうしたらよいのか。具体的な取り組みを紐解きながら考えてみましょう。