コロナ禍で思考が防衛一辺倒になると、人や組織は弱っていく。困難な中に可能性を見つける思考と行動が、ウェルネスを高める。

 「幸せな家庭はどれもみな似たようなものだが、不幸な家庭にはそれぞれに不幸の形がある」。これは、ロシアの文豪トルストイの小説「アンナ・カレーニナ」の冒頭に登場する一節です。

 ある現象に関してネガティブな要素は多くあるのに対し、ポジティブな要素は数が少ないことは「アンナ・カレーニナの法則」と呼ばれます。この法則は、日頃、私が産業医として接する人や組織にも当てはまります。

 例えば、人事異動で職場が変わったとき、「この職場はここがダメだ」「この上司とはうまくいかない」とネガティブな要素に注目し、防衛的な思考に囚われ、メンタルヘルス不調を来す事例は多くあります。ネガティブな要素は掘り出せばいくらでもあるので、結局、別の職場に移っても再びネガティブ要素に着目してしまい、「今度の職場はここがダメ」と感じて不調を繰り返すケースも見受けられます。

 変化に直面したとき、ネガティブな要素に注目して防衛的に反応するか、変化の中で可能性を見つけ成長に向けて挑戦していくかは、思考の方向性が全く異なります。

「防衛」と「成長」は両立しない

 生物の本質的な機能を見ると、防衛反応と成長反応は「同時には発動できない」ことが分かっています。世界的に著名な細胞生物学者ブルース・リプトンによると、人間の細胞は栄養分など生命を永らえさせるシグナルを見つけて「向かっていく」成長反応と、有害物質などの脅威から「離れる」防衛反応を、同時に発動することはできません。前と後ろに同時に移動することはできないわけです。

 さらにリプトン博士は言います。「察知された脅威と生命の間には防御壁を築かなければならない。しかし防衛反応が長引いて、成長反応が阻害され続けると、生体は次第に衰弱していく。成長反応には、エネルギーをつくりだす過程が含まれるからだ」。

 生存のために防衛ばかりしていると、皮肉にも、中長期的には衰弱に向かってしまう。これは、私たちの人生や、組織の盛衰にも通じるアナロジーに思えます。

 どんなことでも状況が変化すれば、そこには脅威だけでなく、数は少ないかもしれませんが必ずチャンスも生まれます。そのチャンスを活用し、成長へ向けて思考と行動を変えられる人や企業が、次の時代を創っていくのだと思います。

 心理学者バーバラ・フレドリクソンは実験を通じて、ポジティブ感情は可能性を広げ、利用できる資源や能力を形成すると提唱しています。「拡張-形成理論」と呼ばれます。

■ ポジティブ(快)とネガティブ(不快)の関係を図示すると?
一般に、ポジティブ(快)とネガティブ(不快)の関係は、単純に正反対のものとしてイメージされやすい(上の①)。しかし、実際はネガティブ要素の方が数が多い(同②)。そのため、不快から逃れることばかり考えていると、別の不快に陥ることも多い。困難を乗り越えるためには、「不快から逃れる(防衛モード)」ではなく、「快に向かう(成長モード)」に思考を切り替えることが大切だ
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