コロナ禍で困難に直面した今、必要な防御行動は取った上で意識的に思考を切り替え、「成長モード」にする必要があるのではないでしょうか。「我々がありたい姿とは?」。今こそ、経営理念に沿って現状を見て、成長モードに転換することが、長期的な発展につながるはずです。最近、それを実感する出来事がありました。

危機時こそ「理念」に立ち返る

 丸井グループは2020年4月、政府の緊急事態宣言を受けて、お客さまと社員の安全を確保するために全店舗を休業しました。その結果、店舗に入る取引先のテナントも営業ができなくなってしまいました。取引先の8割は中小企業です。営業再開の目途も立たず、誰もが苦しい状況でした。これからどうするのか。

 経営層は、このような時こそ「共創」という企業理念に立ち返るべきではないかと議論しました。そして、休業を決定して早々に「新型コロナウイルスを乗り越えるためのパートナーシップ強化策」を打ち出し、休業期間中のテナント家賃を全額免除する施策を取ったのです。

 短期的には大きな損失が生じる決断でした。しかし、思考を防衛モードから成長モードに切り替え、取引先とのパートナーシップを築くことによる中長期的な成長の可能性を追求する道を選択したのです。

 産業医でもある私が注目したいのはここからです。この施策は今春に実施されましたが、夏に実施されたストレスチェックで、社員のメンタルヘルスが良くなったのです。

 外出自粛やコミュニケーションの減少に起因するコロナ禍のストレスにより、社員のウェルネスは悪化していると予想していました。ところが、約6000人いる常時雇用の社員がほぼ全員回答したストレスチェックの結果、高ストレス者の割合は8.0%となり、前年の9.0%から改善しました。平均的な小売業が12.6%、金融業が14.2%ですから、同業他社と比べても低いことが分かります。さらにワークエンゲージメント(熱意をもって仕事に取り組む姿勢)の指標も前年から向上しました。

 要因は複数あるでしょうが、いち早く全店休業を決断し、テナント企業の家賃を全額免除した施策によって、社員の士気が上がり、社内の一体感も増したことは間違いなく影響していると思います。実際、社員からは、痛みを伴いながらも取引先とのパートナーシップを優先した姿勢に、「共創理念の本気度を感じた」「うちの会社が好きになった」という共感の声が多く聞かれました。

 私たちを苦しめる問題は多くありますが、将来の成長に意識を振り向け、現実の中から可能性を見いだすことによって、明るい未来は拓けていく。アンナ・カレーニナの法則はそのことを教えてくれているように思います。