さて、連載の第2回で、株式投資の場合にESG投資家が注目するのは、その企業の「将来」のリスクと機会(オポチュニティ)、そして成長戦略であることをお伝えしました。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 経営企画部 副部長 プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト 吉高 まり 氏(写真:清水 盟貴)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 経営企画部 副部長 プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト 吉高 まり 氏(写真:清水 盟貴)

 これらの情報を開示することで、投資家に期待感を抱かせ、投資行動につながります。

 金融庁はこうした情報開示を行っている事例を集め、2019年3月から「記述情報の開示の好事例集」を公表しています。20年11月に公表された「記述情報の開示の好事例集2020」は、投資家やアナリストが推奨した、企業による「新型コロナウイルス感染症」や「ESG」に関連する開示例が紹介されています。

 この事例集は、有価証券報告書におけるESG情報開示を中心に紹介しています。有価証券報告書は、株式を発行する上場企業などが、投資家に対して投資判断に有用な情報を示すために金融商品取引法によって提出が義務付けられている「法定開示」の文書です。この有価証券報告書で、環境や社会課題への対応といった「非財務」の情報を開示することに対し、日本の多くの企業経営者は躊躇してきた経緯があります。

 例えば、数年先や十数年先などという将来の中長期における環境戦略などを記載した場合に、果たして記載どおりとなるかどうか、さだかではありません。虚偽記載に対する罰則規定のある有価証券報告書に、非財務情報を示すことを躊躇してきた企業の事情は理解できます。

 そんななか金融商品取引法の改正により、経営方針・経営戦略などや、経営者による経営成績などの分析、事業などのリスクといった非財務の「記述情報」の記載が求められ、20 年3月期の有価証券報告書から、記述情報を充実させる対応が必要となりました。こうしたことから、有価証券報告書に中長期目標を含む非財務情報を開示した事例が見られるようになりました。

 「好事例集2020」に掲載された企業のなかでは、味の素が20年3月期の有価証券報告書において、「新中長期経営計画」として「― 味の素グループのASV経営 ―「2030年の目指す姿と2020-2025中期経営計画」」を示し、財務に加えて非財務の目標を記載しました。

 また丸井グループは、20年3月期の有価証券報告書において「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」として、同社の考えるサステナビリティや50年をめどとする「丸井グループビジョン2050」と、それを実現するためのビジネス戦略を示しています。環境やサステナビリティに関わる非財務でも、定量的な目標や実績を記載しました。

 他にも、日立製作所は、30年までのカーボンニュートラル目標を示しています。住友化学も、定量的な中期目標を掲載し、どのようにして実現するかという計画を示しています。

TCFDが「有報」での開示を求める気候関連情報

 企業が有価証券報告書における非財務情報の開示と充実に取り組み始めた理由として、見逃せない動きがもうひとつあります。

 「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の「提言(Recommendations)」は、投資家や金融機関などが、投融資の判断をする際に、企業の気候変動にかかわる情報を参照することを求めました。加えてこの提言は企業に対し、「財務報告書」のような法定文書(日本では有価証券報告書が相当する)で、気候変動に関わる情報を開示すること求めています。こうしたことから、有価証券報告書の記述情報でも、気候変動にかかわる情報の開示が充実するようになってきました。