過去1年間で日本企業が発行した有価証券報告書を調査したところ、約90社がTCFDに関する情報を掲載していました。

 TCFDへの対応というと気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や国際エネルギー機関(IEA)による気候シナリオに基づき、自社の気候変動に対するレジリエンスを把握する「シナリオ分析」がよく知られています。ただ、すべての企業がすぐに、シナリオ分析を行うことは難しいでしょう。

 むしろ投資家は、投融資先の企業の経営者が、気候変動について、どう考えどのように取り組もうとしているかが知りたいのです。これは気候変動に限らず、ESG情報開示のすべてに言えることです。

投資家が知りたいのは経営者の意思

 TCFDは企業に大きく4つの情報開示を求めています。気候変動に対応するための経営者の方針や役割、社内体制を示す「ガバナンス」のほか、気候変動が事業や財務に及ぼす重要な影響とその対処を示す「戦略」、気候変動によるリスクや機会を適切に管理する「リスク管理」のプロセス、そしてリスクを抑え、機会を拡大することを評価、管理するための温室効果ガス削減目標や削減実績などの「指標と目標」です。

 この4つのうち、投資家がまず注目するのは「ガバナンス」の開示です。具体的には経営者がリーダーシップを取って気候変動への対応を経営に織り込む体制を築いているかや、組織として気候変動を取り扱う体制を整え、人を配置し、仕組みを作っているかといった情報です。

 そのうえで、社会や経済が低炭素化や脱炭素化に向けて変化していくに当たり、どのようなリスクが考えられ、これをどう扱うかという「リスク管理」の情報も注目されています。TCFD提言では「機会」という言葉が使われますが、むしろ投資家は「リターン」の情報を知りたいと考えています。捉えたリスクを最小化する事業戦略を取りまとめ、これを遂行することでどのようなリターンを得るかという「戦略」の開示も期待されています。

 つまり「企業としての姿勢」と「対応のための体制がどうなっているか」、気候変動に対する「リスク認識」、それを受けた「事業戦略」、そして「どのようなリターンを期待できるか」を整理することが必要です。

環境配慮製品の売上は投資家にも伝わりやすいKPI

 このような情報開示の分かりやすい例として、企業が独自に環境や社会課題に配慮した製品・サービスの認定制度を設け、その売上高をKPI(重要業績評価指標)に掲げているケースが挙げられます。例えばコニカミノルタは、気候変動をはじめとする環境負荷低減や社会課題の解決に貢献する製品・サービスの創出を目的に、独自の認定制度「サステナブルグリーンプロダクツ認定制度」を導入し、その売上高目標と実績を統合報告書で公表しています。

 また住友化学は、気候変動対応、環境負荷低減、資源有効利用の分野で貢献するグループの製品・技術を「Sumika Sustainable Solutions(SSS)」として認定し、売上収益の目標と実績を統合報告書で公表しています。

 いずれも経営者が企業として気候変動に対応するために制度を導入して製品開発や販売を積極的に推し進める方針を示し、それによって気候変動の解決に貢献しながらリターンを得ていくという「ストーリー」を、投資家に分かりやすく開示している例と言えます。