様々な投資家と話をしていると、50年までにカーボンニュートラルを実現することは簡単ではなく、産業構造が大きく変わるようなこともあると認識していると感じられます。

 金融機関や商社にとって、容易ではありませんが相対的に時間をかければ、事業ポートフォリオを変えることができないことはありません。しかし、簡単ではない業界もあります。例えば素材業界です。生産プロセスで化石資源を使わざるを得ない他、熱需要も多い業界ですが、今すぐ大幅な脱炭素ができる技術が確立されていません。これからいっそう、素材業界に対する投資家からの要請は高まっていくと見られます。とはいえ、素材業界ならば一様に、投資家が評価しないわけではありません。本格的にトランジションの戦略を策定し、開示に努めている企業ならば、ESG投資家がその内容を評価しているケースも見られます。

 ただ、日本全体の国際的競争力を考えると、多くの企業がそれぞれに多額のコストを投じて革新的な技術開発や設備投資を進めて、個社がカーボンニュートラルを実現することが、果たして最適解か、効率的なのかと疑問を持つ投資家もいます。なかには、素材メーカーも機器メーカーも1つの国に何社も必要か…という、大胆な見方を漏らす投資家がいます。

自動車業界にも投資家のシビアな視線

 素材業界だけでなく機械組み立てなどの製造業でも、投資家からシビアな目が向けられています。特に自動車メーカーは、世界の競合と非財務情報を横並びにした比較が始まっています。十数万社にも及ぶと言われる企業サプライチェーンの頂点にいる自動車メーカーの方針は、グローバルで様々な企業、業種に影響を及ぼします。そのためESG投資家も注目しており、ESG評価機関も、各社の開示情報を細かく分析していると見られます。

 例えば、オランダに本拠を置く評価機関のサステナリティクスによる自動車業界のESG評価によれば、(評価の根拠について詳細は明示されていませんが)ドイツのBMWやダイムラーに比べて日本の自動車メーカーはリスクが高いと評価されています。

 そんななかで、自動車レースのフォーミュラワン(F1)からの撤退と50年までのカーボンニュートラルに向けた投資の加速を打ち出したホンダは、中程度のリスクと評価され、日本の自動車メーカーの中ではESGリスクが低いとされています。ホンダは気候変動に限らず、男女賃金格差をいち早く開示するなど、ESG情報開示に積極的に取り組んでいる面も評価されていると見られます。

 前回もお話しましたように、日本の政府、そして米国や欧州がカーボンニュートラルの方針を示していることから、脱炭素への取り組みは、企業にとって環境(E)対策の範囲を超えて企業のガバナンス(G)として取り組むテーマとなりました。特に、このたびの金融庁のコーポレートガバナンス・コードの改訂では、特にプライム市場上場企業において、TCFDまたはそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量の充実が含まれています。もちろん、プライム市場の金融機関もその対象となります。

 脱炭素戦略に関する期待感を投資家に持たせる戦略の策定と情報開示が、どのような業種の企業にとっても重要な課題となっているのです。