三菱UFJリサーチ&コンサルティング 経営企画部 副部長 プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト 吉高 まり 氏(写真:清水 盟貴)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 経営企画部 副部長 プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト 吉高 まり 氏(写真:清水 盟貴)

 この連載も最終回を迎えることとなりました。今回は、国内外における最新動向とこれからの見通しについてお話したいと思います。

 6月18日、筆者も参加した金融庁の「サステナブルファイナンス有識者会議」(以下、有識者会合)で取りまとめた報告書が公表されました。サステナブルな社会を支える金融セクターの役割を洗い出し、基本的な考え方を示した内容です。金融機関は、顧客のサステナビリティに関わる様々な取り組みを支える役割を担いながら、特に、気候変動リスクが、現在対応すべき最も重要な課題とリスクを抑える必要もあることから、リスク管理についても言及しています。

 サステナブルファイナンスは世界の潮流となりましたが、日本でも一層、その規模が拡大していくでしょう。日本におけるサステナブルファイナンスの課題を洗い出し、進むべき方向性を示して進化させていかないと、世界のスピード感に日本は追い付けなくなる可能性があります。この報告書を契機に、日本の産業や経済の成長を後押しするというファイナンスの役割を明確にしています。また、金融機関と企業だけでなく、個人投資家や学界、NGOまでを巻き込むことの重要性も示しました。

脱炭素イノベーションへ、早期の資金供給が必要

 有識者会合で特に意見が集中し、賛同が得られた論点として、サステナブルファイナンスは世界的に標準になりつつあり、国内で一時のブームにならないように、スピード感を持って取り組むべきだということでした。そして、日本全体で、脱炭素や気候変動対策の資金を必要としているところへの資金投入を急ぐ必要があります。産業界の代表として議論に参加した委員も、脱炭素技術のイノベーションには多額の資金が必要であることを訴えました。

 有識者会合では、公的資金だけでは企業のイノベーションや研究開発を後押しするのには十分でないことから、民間の金融機関からの支援が必要であることが議論されました。その実現のため、金融機関が脱炭素技術やイノベーションによるビジネス機会やリターンを読み取って資金投入を判断できるように、企業側はさらなる情報開示を充実させる必要性も改めて確認することになりました。

 読者のなかには、欧州連合(EU)が導入を議論、検討している「タクソノミー」のような仕組みを日本がどう扱うのかに関心を持っていた方もいるのではないでしょうか。

 タクソノミーとは「分類法」を示す言葉です。EUは、グリーンな製品・サービスを独自に定義するルールとしてタクソノミーを策定しているところです。世界的に金融市場において、グリーンボンドやサステナビリティ・リンク・ローンなどといった環境や社会課題解決に寄与する資金使途を明示する金融商品の実例が増え始めている中、実際には環境や社会に貢献することが認められない「ウオッシュ」の商品が流通するのを防止する目的があります。

 日本でも、こうしたタクソノミーを定義すべきではないかという指摘もあり、この会合でも議論されました。今回の議論では、EUでの策定の経緯やウオッシュ防止に役立つと言われ、サステナブルファイナンスを推進する政策ツールとしての可能性に言及し、日本として、タクソノミーの策定の課題を考慮し、議論への参画などを明確にしました。

 これは、CO2の排出の多い産業では、脱炭素社会へのスムーズな移行を図る必要があり、金融機関もそれを資金面で支えるという役割を果たさなければならないからです。金融機関からすればウオッシュに投融資するなどのリスクを抑え、リターンを考慮する手助けとなるものがあることは重要ですが、あらゆる産業を網羅する公平なタクソノミーの策定には大きな労力が必要でしょう。

 (私も会議で申し上げましたが)タクソノミーの議論に政府の政策立案者の時間を割くことも重要だが、すぐそこに迫る、世界的な気候変動情報開示の義務化の波に迅速に対応する必要があろうかと思います。報告書ではトラジションという言葉を使っていますが、キーポイントは、トランスフォーメーション(システムの置き換え)やイノベーション。これらに挑む企業による具体的な情報開示と、それに対する、金融機関による評価、そして資金投入を進めることです。有識者会合に参加した資産運用会社の代表を始め、すべてのメンバーが、今回の報告書を起点にいっそう、気候変動対策を含む企業の取り組みを評価し、スピード感をもってサステナブルファイナンスに取り組む意欲を示していました。