これまでも経済産業省がトランジションファイナンスのガイダンスを策定しており、企業側には気候変動に関する情報開示として、どのようなものが求められているか、方向性も明らかになっています。とにもかくにも既存の方針を基に、企業による情報開示を促すことが重要となるでしょう。

 また今は、気候変動に注目が集まっていますが、サステナブルファイナンスとは今後より一層、焦点が当たるプラスチックなど、関連する資源問題や人権問題など、幅広い社会課題への対応が包含されます。まずは企業として気候変動対策を中心にしっかりと情報開示していくことが必要になります。

米国では州レベルで気候リスクに注目

 国外に目を向けると、米国では21年5月20日、サステナブルファイナンスに関して注目すべき動きがありました。ジョー・バイデン大統領が、気候関連の金融リスクに関する大統領令に署名したのです。

 具体的には、米国の連邦政府や州政府において経済政策や財政、金融の監督に関係する省庁・政府組織の長に対して、政府財政や金融システムに及ぼし得る気候リスクの考慮を義務付ける内容です。

 バイデン大統領の誕生、そして民主党政権への移行後、特に気候変動対策では前トランプ大統領の取った政策から一変して、世界の動向に同調していると誰もが感じていることでしょう。ただ、米国の金融市場においては、トランプ政権下でも金融機関は既に気候変動リスクを重視していました。

 実際、民主党支持者が優勢の州では、気候変動を考慮した投融資が進んでいる傾向があります。例えばメーン州は州の法律で石油やガスを扱う企業に対し州の退職年金基金の運用対象から外すことを決めました。オイル・ガス会社に対する投資対象除外を進めているとして知られていたのはニューヨーク州退職年金基金(NCRF)でしたが、他の州にも広がっていく可能性があり、ニュージャージー州やメリーランド州、マサチューセッツ州は動き出しています。年金基金や州レベルの資金運用について、気候変動に対するリスクを評価することを求める法律がまとまりつつあります。バイデン政権下では一層、この動きは加速するでしょう。そうなれば自ずと、民間の金融機関も、気候リスクを把握しなければならなくなります。

 米国での資産運用方針は米国株だけでなく、日本を含む世界の企業の株式も影響を受けます。米国でビジネスを展開する日本企業の資金調達も影響を受けるでしょう。

 民主党の新大統領の誕生によって、人権や環境に関して、ファイナンス分野で起きている変化には目を見張るものがあります。米国でも、企業や金融機関が、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に基づく気候関連情報について、義務付けられてはいないものの、開示せざるを得ない状況となります。

 国際統合報告評議会(IIRC)と統合した米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)がまとめた情報開示のSASB基準は、TCFD提言に基づく気候リスクの開示を重視しています。米国の上場企業は、株式や債券の取引を監督する米国証券取引委員会(SEC)に報告が義務付けられている情報開示にSASB基準を用いるため、結果として気候リスク開示に踏み込まざるを得なくなりました。

 また、SECの影響力は米国市場に上場する企業向けで、世界の多くの企業が米国市場で上場しているため影響を受けます。そして、IFRS(国際財務報告基準)を策定するIFRS財団が、気候変動を含むサステナビリティに関する基準の策定と、気候リスクの情報開示を求める方針を示していることから、米国市場の上場企業でなくも、気候リスクの開示は、企業にとって義務ではありませんが、必須のもとのとなりました。