海洋や森林を生かした気候変動対策も活発に

 もう一度、国内に視点を戻し、これからいっそう注目を集めそうな新たなテーマをいくつか紹介しましょう。5月、国や自治体、企業などの温暖化対策に関する「地球温暖化対策推進法(温対法)」が改正されました。これに基づき、環境省、経済産業省のみならず、農林水産省や国土交通省などが所管する様々な分野での新たな温暖化対策について議論を始めました。

 例えば、緑化をはじめとする自然環境が有する多様な機能を活用することを「グリーンインフラ」と呼んだり、陸のグリーンに対し海洋や河川といった水域の活用を「ブルーインフラ」と呼びます。これらのさまざまな機能の中でもCO2(カーボン)を吸収する機能に注目して、「カーボンマイナス」または「ネガティブ」にするなど、温暖化対策に活用しようという議論です。

 企業は、CO2排出削減のみならず、吸収をはじめとして社会が求めるサステナビリティと、自社のビジネスとの関係をホリスティック(全体的)に捉えて経営に組み込んでいくことが必要になってくるでしょう。

 今年の「気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)」では、パリ協定第6条の詳細ルールを交渉する予定となっています。6条は、「クレジット」を用いてCO2の削減量や吸収量を移転できるようにする「市場メカニズム」を規定しています。COP26で詳細ルール交渉が決着すれば、森林吸収によるクレジットも含めてカーボンクレジット取引市場が活発化することも期待されています。

 米マイクロソフトなど、自社のCO2排出量を削減し、実質ゼロ排出よりも減らしてマイナスにするカーボンネガティブを目指すケースも現れています。森林クレジットは排出量をマイナスに相殺するのにも用いられるでしょう。

資産を預ける個人の意思が成否を分ける

 またこれからは、日本でも個人の投資家が、社会のサステナビリティに対し果たせる役割についても注目されるようになるでしょう。

 米国では巨額の資産を保有する個人投資家が気候変動対策に関わるビジネスに投資したり、昨今では新型コロナウイルス感染症に対するワクチン開発に資金を投じたりしています。株式など金融市場もこうした個人投資家の動きに反応し、より大きな資金が流れる様子が見られました。

 日本では約1950兆円に上る個人の家計金融資産のうち、約1060兆円が預貯金として眠っている一方、これらの資産がサステナビリティに対する役割を果たしているとは言えないのが実情です。今後、日本におけるサステナブルファイナンスをいっそう加速するには、資産運用会社や銀行に資産を預ける個人の意識や意思を、いかにサステナビリティに向けられるかも、課題となってくるでしょう。

 欧米など海外は、銀行や保険会社、年金基金などに資金を預ける個人の意思が明確なため、資産運用会社などの行動に影響します。銀行との関係が深い日本では、これから脱炭素に取り組む企業を金融セクターが資金面で支援するには、個人を含むアセットオーナー(資産保有者)、預ける人たちが意思を持って動かなければ、企業が今、望んでいるような脱炭素ファイナンスも拡大しづらいでしょう。

 かつて、日本のインフラを担う企業を多数、創設したり投資したりした渋沢栄一氏のように、これからの日本がどう在るべきか意思をもち、資産を生かそうという経営者や個人がどれだけ現れるでしょうか。これが日本の脱炭素や、50年のカーボンニュートラル実現に向けたトランジションの成否を分けるかもしれません。