機関投資家が投資先を選定する場合に重視することの1つに、投資先企業の「レピュテーションリスク(評判リスク)」があります。このリスクを抑えるため、投資先の財務パフォーマンスや経営・事業の戦略を精査するのに加え、企業統治(ガバナンス、G)や、環境(E)と社会(S)の課題への対処状況を評価するESG投資が主流化しています。財務情報とは対照的に、ガバナンスや環境、社会に関する取り組みは「非財務情報」とも呼ばれます。

 環境の課題のなかでも、特に世界的に重要視されている気候変動問題に対し、ネガティブとみられる活動を行う企業は、社会の評判を下げ、ブランド価値を棄損し、株価にも影響が及ぶリスクが想定されます。

 そこで、例えば年金基金などといった資産保有者(アセットオーナー)が、資産運用を委託する資産運用会社(アセットマネージャー)に、株式や債券などに投資する際に、投資先企業の経営戦略や手掛ける事業が気候変動の防止に対して、ポジティブに取り組んでいるかどうかを評価することを求めるようになりました。

 そして、世界の中央銀行による低金利政策が長期化しています。そこで、相対的にリターンが安定しているものの利回りが低い債券のような投資商品よりも、リスクを取りながら相対的に大きなリターンを得られる投資対象として、株式市場に資金が流れる中、ESG投資が増加している傾向があります。E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)に配慮していると評価される企業は、ガバナンスが整い、バランスシートも良好で、ブランド毀損のリスクも低い。このような企業は、株式、債券でパフォーマンスも良い傾向がみられる他、ESG銘柄によるETF(上場投資信託)の買いなども増加しています。

世界で異常気象に多額の保険支払

 より現実的なプレッシャーとして金融業界が危機感を抱いているのが、保険業への影響です。日本の大手損害保険3社によれば19年、台風など気象災害の損害保険金の支払額が1兆円を超えたといいます。東京海上ホールディングス、MS & ADインシュアランスグループホールディングス、SOMPOホールディングスの20年3月期決算を基に、19年度の3社の同保険金の支払額を合計したところ1兆2200億円に達しました。

 保険会社は、他の保険会社による再保険や再々保険を掛けています。世界で気象災害が同時に甚大化し、保険や再保険、再々保険を手掛ける保険会社の経営を圧迫すれば、保険金の引き受けや、支払いができなくなる恐れも高まります。保険会社の引き受けがなければ、銀行もリスクヘッジ手段として保険を活用した融資ができなくなります。

 こうしたことから気候変動は、中長期視点の投資家を中心に、短期志向のヘッジファンドまでも巻き込み、リスクを低減する一方、投資リターンを拡大する重要な投資テーマとなっています。気候変動を防止するためのビジネスや、積極的な企業に、世界の投融資が向かっています。

 それでは、世界の機関投資家や金融機関は、何に着目して投資しようとしているのでしょうか。また今後、世界のESGマネーはどのように流れるのでしょうか。この連載では、機関投資家の動向を背景とした、気候変動を巡る企業の行動変化にも着目していきたいと思います。

■世界の自然災害の発生件数(1980~2017年)
出所:ミュンヘン再保険「TOPICS Geo Natural catastrophes 2017」
■世界の自然災害による経済損失(1980~2017年)
出所:ミュンヘン再保険「TOPICS Geo Natural catastrophes 2017」