いま、株式市場でも比較的リスクを抑えられるESG銘柄に対する投資家の期待が高まり、マネーが集まる傾向が見られます。ESGをテーマにした上場投資信託(ETF)や、ウィズコロナ、アフターコロナにおける社会・経済のデジタル化を見据えたIT・ハイテク株に、中長期志向のESG投資家による買いが増加傾向にあります。

 背景には、先進国を中心に中央銀行が金融緩和(低金利)政策をとるなか、リスク性金融商品に資金が流れる傾向とともに、コロナ禍においてESG経営に取り組む発行体への投資のリターンが底堅いという相関関係が認識されつつあることがあります。また、株式のみならずESG債への注目も高まっています。

 米フィデリティ・インターナショナルは、20年2~3月の米国株式市場の急落局面でも、ESGレーティングが高い企業の株式と債券で、強い正の関係がみられたとの分析を20年4月に発表しました。前回もお伝えしたように、ESGレーティングが高い企業は、情報開示やガバナンスがしっかりとしている傾向があります。

 年金基金や生命保険などといった加入者から多額の資金を預かる資産保有者(アセットオーナー)や、それらから運用を受託する資産運用会社(アセットマネジャー)は預かった資金の将来価値に見合う運用益を上げるなどの責務(受託者責任)があります。これらの投資家を機関投資家といいます。

 近年まで、欧米では、米国の経済学者ミルトン・フリードマンが唱えた株主第一主義が主流で、企業は株主の利益を最大化することが使命であり、環境問題や社会貢献、ボランティアに資金を投じることは、株主に対する責任を果たしていない行為ともみられてきました。しかし、リーマンショックを起こしたショートターミズム(短期的な利益やリターンを重視した行動)の反省から、機関投資家にとっては、これらの企業活動も長期的には企業価値向上につながるとみるべきとする考えが浸透し始めたのです。

 このような背景から、機関投資家は、企業の環境や社会課題への解決にかかわる非財務情報から、将来的に企業価値を高める可能性(機会)と、企業価値を下げる可能性(リスク)について、企業がどのように捉えており、管理していくのか、またそれらを戦略としてどのようにまとめ上げているかに注目しています。また、コロナ禍以前より、米国の財界ロビー団体であるビジネス・ラウンドテーブルによる「株主第一主義」から「ステークホルダー資本主義」への転換の宣言などにも見られるように、企業は自社の利益の最大化だけでなく、パーパス(Purpose)の実現も目指すべきだという姿勢を表明し始めてもいました。

 その点で、日本企業の非財務の情報開示は、欧米の企業と比べるとまだ改善の余地があります。

 企業の年次報告や統合報告には「トップコミットメント」が掲載されています。これを見ると、日本のトップの多くはまず、中期経営計画の実績や過去の振り返りを語ります。これも重要な情報ですが、投資家は、年次報告や統合報告を参照する時点では既に、中計の中身や実績を認識していると言えます。トップがまず発信すべきなのは、その実績に基づいた将来の情報です。「これから事業を成長させていく、こう変えていく」という将来の戦略と情報を強調して語る必要があります。

投資家は「削減目標」よりも「炭素効率」を見ている

 企業によるESGへの取り組みとして、温室効果ガス排出量の削減目標や、近頃ならカーボンニュートラル目標を発表するケースが相次いでいます。ただ、ESG投資家は、温室効果ガスやCO2を、総量で削減する目標が野心的かどうかだけを見ているわけではないのです。