企業にとって、人材は価値創出の原動力であり、最大の資本である。社会全体で人材を大切に育み活用する、新たな人材マネジメントが求められている。

 近年、「人的資本」が世界的に注目されています。従業員の成長なくして企業の成長はありません。従業員を経営のステークホルダーとしてより重視し、戦略的に人材開発に投資する、人事評価制度や職場環境を整える─。こうした施策によって、一人ひとりの能力を引き出す取り組みが必須になっています。

 新型コロナウイルス禍を機に、働く人々の意識や働き方、コミュニケーションも大きく変化しました。時代の転換期ともいえる今、どのような人材マネジメントを実践していけばいいのでしょうか。

 本連載では、最新の調査結果を紹介しながら、日本企業が目指すべき「人的資本経営」の具体的なポイントを提案してまいります。人的資本経営の定義は様々です。私たちは、「人材を経営上の最も重要な『資本』と捉え、すべての人的資本を活かし、その価値を持続的に向上させる人材戦略の実践を通じて、経営目的の実現と企業価値の向上を図る経営の在り方」と考えています。

株主資本主義からの脱却

 人的資本経営への転換が起きている背景には、4つの視点があります。

(1)社会的視点

 サステナブル(持続可能)な社会づくりに向けた世界的なコミットメント。これが第1の視点です。

 米国の経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は2019年、これまでの「株主資本主義」から脱却し、顧客・従業員・サプライヤー・地域社会・株主などすべてのステークホルダーを重視する方針を表明しました。20年に開催された世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)でも、同様の概念である「ステークホルダー資本主義」が主題となりました。

 こうした動きが、近年のESGへの積極的な取り組みと相まって、「多様性の尊重」「従業員エンゲージメント」といった従業員に関わる指標を重視する経営へとつながっています。

(2)経済的視点

 投資判断指標として「見えざる資産」を評価する傾向が強くなっています。一昔前は主に財務的な指標が株価に反映されていましたが、1990年代以降、非財務的な資本によって企業価値の8割が評価される方向へ変化しているという分析(※1)があります。今後の投資判断において、「人的資本」の指標を抜きに、企業価値を考えることはできなくなっています。

(3)戦略的視点

 あらゆる企業が推進するデジタルトランスフォーメーション(DX)を含め、産業構造の転換が起きています。時代が大きく動く中、企業は未来志向の挑戦的な経営を展開していく必要にかられています。

 そのためのイノベーションを生み出すのは、やはり「人」。人が健康に、生き生き・伸び伸びと働ける環境をいかに整えるか。「人を最大限に活かす」視点が重要であり、それが企業の中長期的な発展につながっていくと考えられます。

※1 「Recommendation of the Investor Advisory Committee Human Capital Management Disclosure」(米証券取引委員会、2019年3月28日)