企業に人的資本に関する情報開示を求める動きが盛んになっている。各国の機関でどのような議論が進んでいるのか注視する必要がある。
企業が「人的資本経営」を実践していくためには、2つの課題があります。
1つは「人的資本の価値を高める戦略」です。これは、人的資本の価値を持続的に向上させていく戦略を検討し、従業員へ働きかけながら推進していくことを指します。
もう1つは「人的資本の情報開示」で、ステークホルダーに対して、自社の人的資本の状況を透明性高く開示することを意味します。どのような人的資本の情報を、どのように測定し、社内外のステークホルダーに情報を開示していくかについて具体的に検討する必要があります。
この2つはそれぞれ切り離して考えるのではなく、人的資本経営を推進するために欠かせない構成要素として捉えることが肝要です。人的資本の価値を向上させる一連の取り組みを社内外に開示し、ステークホルダーと積極的に対話をする。そうして得られた指摘やフィードバックを、人的資本のさらなる価値向上に活用していくという好循環をつくり出すのです。

(出所:リクルート)
今回は人的資本の情報開示について、昨今の国内外の動向や企業が実際に情報を開示する際のポイントをお話しします。
SECが上場企業に義務付け
米証券取引委員会(SEC)は2020年8月に、「人的資本の情報開示」を上場企業に義務付けると発表しました。その後、開示ルールの改正が議論され、法案が21年6月に米国連邦議会の下院を通過しています。法案には8つの具体的な開示項目が示されています。
- 契約形態ごとの人員数
- 定着・離職、昇格、社内公募
- 構成・多様性
- スキル・能力
- 健康・安全・ウェルビーイング
- 報酬・インセンティブ
- 経営上必要となったポジションとその採用の状況
- エンゲージメント・生産性
これらの項目についての詳細は現在策定中であり、引き続き注視が必要です。