調査では、ISO30414の主要11領域についての開示・報告状況も尋ねています(下の図)。「測定しており、情報は社内および社外に開示・報告している」と「測定しており、情報は社内のみ開示・報告している」を合わせた割合は、全ての領域で50%を下回る結果となりました。

■ 「価値向上」につながる人的資本情報の開示に遅れ
■ 「価値向上」につながる人的資本情報の開示に遅れ
※「社内開示」と「社内および社外開示」を合わせた割合が高い順に掲載
※ISO30414を参考に24項目の人的資本情報について確認し、11の領域ごとに集計したもの
(出所:リクルート)

 開示・報告している割合が比較的高いのは「コンプライアンスおよび倫理」と「組織の健全性、安全性およびウェルビーイング」。一方、割合が低かったのは「サクセッションプラン」「リーダーシップ」「スキルおよび能力」です。

 人的資本の開示に取り組む意義として、「リスクマネジメント」の観点と「価値向上」の観点があります。例えば、コンプライアンス研修を徹底することや職場のハラスメントなどの実態を監督することは、企業のリスクマネジメントを強化します。これに対して、従業員の職務遂行に必要なスキルの保有状況を「見える化」して活用することは、企業の中長期的な価値向上につながります。

 先に挙げた、現状で開示割合が低い領域は、一般的に「価値向上」に資する領域といわれます。「スキルおよび能力」の領域に関しては、「測定している」という回答が6割強と、比較的進んでいます。しかしながら、社内や社外への情報の開示・報告は進んでいないようです。

 「スキルおよび能力」を例にとると、以下のような情報を開示することが、ステークホルダーの人的資本に対する理解につながるでしょう。

  • 社員のスキルや能力をどれだけ把握しているか
  • 中長期的に事業を成長させるために必要な社員のスキルや能力は何か
  • スキルギャップを埋めるためにどのような取り組みをしているか
  • 研修にどれだけ投資をしているか
  • 研修にどれくらいの人数が参加しているか
  • 社員たちが何を学んでいるか

 人的資本の価値を高めるために、現状と将来(あるべき状態)をどのように捉えていて、将来に向けて具体的にどのような取り組みをし、モニタリングしているかを示すことが大切です。

 なお、情報開示は株主・投資家に向けた「社外への情報開示」が注目されがちですが、「社内への情報開示」も同時に進めるべきでしょう。

 社内向けの開示・報告の活用事例としては、従業員満足度やエンゲージメントサーベイの結果を現場のチームにフィードバックして、よりよいチームにしていくためにメンバー同士で対話をするといった施策があります。従業員のスキルや経験に関する情報に基づき、マネジャーが個々のメンバーとスキルの棚卸しやキャリアパスを検討するなど支援も可能です。

 今後はこれらの人的資本情報を人事部内など限られた範囲で活用するだけでなく、社内外のステークホルダーに広く報告・開示していくことが重要となるでしょう。それが、企業の「価値向上」につながるのです。

 次回以降は、重要な人的資本の情報について、実際の企業の開示事例とともに解説していきます。