人的資本の情報開示では、「ストーリー」と「対話」の大きく2つがポイントになる。三井化学、日立製作所、丸井グループの3社の事例を基に解説する。

 今回は、「人的資本の情報開示」について、実際の企業の開示事例を交えてお話しします。

人的資本への投資、3つの観点

 本連載の第2回で取り上げたとおり、私たちが考える人的資本の情報開示のポイントは2つあります。「一貫性のあるストーリーを伝えること」と「ステークホルダーとの対話を始めること」です。

 自社の経営理念や人材マネジメントポリシー、人的資本への取り組み・投資に関するKPI(重要業績評価指標)などについてそれぞれの関連が分かるようにストーリーで伝えていく。そして、情報開示をゴールにするのではなく、様々なステークホルダー(従業員・顧客・地域社会・株主・パートナー企業・就職を希望する個人など)と、人的資本に対する価値観や投資戦略について対話することが必要です。

 「一貫性のあるストーリー」に織り込むべき中心的なテーマが、「人的資本への投資」です。では、企業はこの投資をどのように捉え、実行していけばいいのでしょうか。観点は3つあります。

(1)人材価値の向上
 人材の採用、従業員のスキルや能力を高めるための取り組み。セミナー・研修・経験を積む機会の提供、リーダー人材育成など。
(2)人材価値の活用
 従業員が保有するスキルや知識・経験を企業の価値創出につなげるための仕組みをつくり、機能させる取り組み。適材適所の実現、個々の強みを活かすジョブ・アサインメントなど。
(3)人材価値の循環
 人材の価値を、企業の枠を越えて広く社会で巡らせるための取り組み。副業・兼業、アルムナイ(退職者)・ネットワークの構築、キャリア教育支援の提供など。

 この3つの観点のうち、今回は「人材価値向上への投資」にフォーカスします。実際の企業事例を順に見ていきましょう。

経営リーダーの要件を定義

 まずは三井化学です。同社は、経営リーダーに対する考え方と育成方針を開示しています。

 公式サイトでは、「キータレントマネジメントと戦略重要ポジション後継者計画」と題し、人材戦略に対する考え方と取り組みを説明しています。経営者候補に求める人材要件を具体化するとともに、「経営者候補に必要な経験」を5つの軸で示しています(下の図左)。

 三井化学独自の取り組みといえるのが、「後継者候補準備率」の開示です(同右)。全社戦略を遂行する上で重要なポジションについて、十分な後継者候補を確保できているかを数値化し、経年変化を明示しています。

■「 後継者候補準備率」を開示する三井化学
■「 後継者候補準備率」を開示する三井化学
[クリックすると拡大した画像が開きます]
■「 後継者候補準備率」を開示する三井化学
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出所:三井化学