温暖化による気温上昇を抑えるための、化石燃料由来のCO2排出量の上限(累積の排出量)。カーボンバジェットを直訳すると「炭素収支」「炭素予算」となる。

 国際エネルギー機関(IEA)が用いる気候変動のシナリオの1つに「450ppmシナリオ」がある。50%の確率で気温上昇を2℃未満に抑えるためには、温室効果ガスの大気中の濃度を450ppmに抑える必要があるという。このシナリオを達成するには、化石燃料由来のCO2の累積排出量を3000Gt(G=ギガは10億)に抑える必要がある。2015年までに2002Gtを排出したので、2100年までに排出可能なCO2排出量(カーボンバジェット)は998Gtとなる。

 カーボンバジェットの値は、石炭や石油、ガスなどの確認埋蔵量の5分の1から3分の1に相当する。その値を超えて化石燃料を使うと450ppmシナリオの達成は難しくなる。15年に、金融安定理事会(FSB)の議長を当時務めていたマーク・カーニー氏(元イングランド銀行総裁)が、投資家に対してカーボンバジェットを認識し、金融政策や投資における気候リスクを考慮するように促したことなどをきっかけとして、投資家の注目が高まった。カーボンバジェットが考慮されるようになると、化石資源の価値が毀損したり使用できなくなったりすると考えられる。実際に石炭火力発電事業などからの投資や保険の引き揚げなども始まっている。

 22年4月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3作業部会(WGⅢ)の第6次評価報告書(AR6)では、2℃目標の達成には30年以降に急速な削減が必要になること、1.5℃を目標とする場合は現行のNDC(パリ協定批准国が提出する温室効果ガスの国別削減目標)で想定される削減目標が全て達成されたとしてもギャップがある(削減量が足りない)こと、排出量を25年までにピークアウトさせ、30年までに19年比で4割削減することが必要といった知見が示された。2℃目標の場合は70年代にCO2排出量をゼロに、1.5℃目標の場合は50年代にCO2排出量をゼロにする必要があり、今世紀後半には大幅な「負の排出(吸収・隔離)」が必要となるとされる。

政府間パネル(IPCC)第3作業部会(WGⅢ)の第6次評価報告書(AR6)によるCO<sub>2</sub>排出量の予測(出所:IPCC AR6 WG Ⅲ Figure SPM.5)
政府間パネル(IPCC)第3作業部会(WGⅢ)の第6次評価報告書(AR6)によるCO2排出量の予測(出所:IPCC AR6 WG Ⅲ Figure SPM.5)