聞き手/藤田 香

世界銀行は自然資本を国や企業の会計に組み込むプロジェクトを推進している。新しい会計によって途上国の乱開発を防ぎ、GDP偏重からの脱却を目指す。

――世界銀行は、2012年に開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)で「50:50プロジェクト」を発表しました。これは大気や水といった「自然資本」の価値を50カ国が国家会計に、50企業が企業会計に盛り込むことを目指すプロジェクトです。国や企業の数はどこまで広がりましたか。

ジョン・マトゥザック
米国務省で科学振興協会の科学・外交・生物多様性研究員を経て2002~12年に持続可能な開発局長を務める。リオ+20ではUNEP(国連環境計画)地域グループ長として活躍。2013年から現職
写真/中島 正之

マトゥザック氏(以下、敬称略) 2014年2月時点で69カ国、90社に達しました。先進国はもちろん、多くの途上国が参加しています。主要な企業やNGO(非政府組織)も加わっています。リオ+20を転換点として、自然資本が世界で大きな注目を浴びるようになりました。

――世銀がこのプロジェクトを始めたきっかけは何ですか。

マトゥザック 自然の価値を国家会計に組み込む活動そのものは、1992年の地球サミットで採択された「アジェンダ21」から始まりました。経済の指標として使われているGDP(国内総生産)には環境の側面が反映されていません。

 これでは持続可能な開発を実現できません。そこで国連は環境の側面を組み込んだ「環境・経済統合勘定」(SEEA)を国家会計に入れることを1993年に提案しました。世銀は国連やOECD(経済協力開発機構)と共同で、自然資本の価値を国家会計に組み込む研究を進めてきました。

 大きな節目になったのは、2010年に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)です。G8(主要8カ国)の合意の下で進められた生物多様性の経済的評価を行うプロジェクト「TEEB(生態系と生物多様性の経済学)」の最終報告書が発表され、生物多様性の年間の損失が世界のGDPの6~7%にも上ることが報告されました。

リオ+20の「50:50プロジェクト」の発表会場。上はプロジェクトに参加したノルウェーの首相
写真提供:Mariana Ceratti, World Bank

 世銀はCOP10の会場で、TEEBの成果を基に、自然資本の価値を会計に盛り込む「WAVES(生態系価値評価)」というプロジェクトを発足させました。生態系サービスの価値を所得や資産価値として定量化し、政策立案に反映させる手法を開発するとともに、生態系の価値評価のガイドラインを策定することを打ち出しました。

 例えば森林には木材を提供する価値だけではなく、水の涵養や洪水の緩和、土壌の保全、ハチのすみかとして受粉を手伝う価値もあります。こうした価値を評価し、国家会計に反映させるのです。WAVESへの賛同を募るキャンペーンが50:50プロジェクトです。COP10議長国の日本政府は同プロジェクトの運営委員会に参加しています。

欧米の大手企業も自然資本会計に賛同
出所:http://www.wavespartnership.org