聞き手/斎藤 正一

素材開発で地球環境に貢献、素材には社会を本質的に変える力があると話す。2014年2月発表の中期経営計画ではグリーンイノベーション事業の拡大を掲げた。

――環境・CSRへの取り組みを、素材メーカーとしてどのように経営の中に位置付けていますか。

日覺 昭廣(にっかく・あきひろ)
東レ 代表取締役社長
1973年東京大学大学院工学系研究科産業機械工学修士課程修了、同年東レ入社、2002年取締役、2007年代表取締役副社長、2010年から現職
写真/中島 正之

日覺昭廣氏(以下、敬称略) 東レグループは、「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」を企業理念に掲げています。「Innovation by Chemistry」をスローガンとしてケミストリーの力で先端材料を開発する。革新的な素材を開発して地球環境に貢献することが企業理念に一致すると思っています。

 特に素材には社会を本質的に変える力があるとずっと言い続けてきました。組み立てや加工でいろいろなことを変えるのには限界がある。やはり素材が根本的に変わらないと大きな変化は起こりません。

――具体的にはどんなケースがありますか。

日覺 当社の炭素繊維は、米ボーイングの中型機「787」に採用されています。炭素繊維は金属に比べてはるかに強度が高いので機体の圧力を下げなくてもいい。樹脂を使っているので湿度も、大気に近い状態に保てます。特に長距離で乗ると疲れが全然違います。女性は化粧崩れがほとんど起きない。炭素繊維は軽いので省エネについて語られますが、実はこうしたメリットがあるんですね。

 当社とカジュアル衣料「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが共同開発した「ヒートテック」(発熱保温肌着)も、大きな変化を生んだケースでしょう。この商品の登場で冬の着こなしが大きく変わりました。冬場のゴルフ場は寒くて皆さんゴルフを諦めていましたが、今ではヒートテックを着れば寒くありません。

――2014年2月に発表した中期経営計画(以下、中計)のなかでグリーンイノベーション事業の拡大を掲げています。狙いは何ですか。

日覺 地球温暖化、大気汚染、水不足など地球規模の課題として重要性を増す環境問題や資源・エネルギー問題の解決に貢献する事業をグリーンイノベーション事業と位置付けています。今回、中計を作るに当たり10年後を見据えた長期経営ビジョンも見直したのですが、省エネや新エネなど環境関連の市場がますます重要になることが分かりました。この事業の売り上げは2013年度の見通しで約5200億円です。2016年度に約7000億円にする計画です。

――中計では新規投資2400億円のうち、炭素繊維と繊維事業に1300億円を投資すると発表しました。

軽量で強度の高い炭素繊維は、ボーイング「787」や2000万円以上のスーパーカーに採用されている

日覺 当社は高品質・高機能な炭素繊維を扱っています。炭素繊維はボ ーイング「787」以外にも、F1のレーシングカーを含め2000万円以上のスーパーカーにはほとんど採用されています。車の市場で炭素繊維は安全性が高く軽量化できる点が評価されています。

 利益面では航空宇宙分野が一番効率が良いのですが、これは軽量化に関してプレミアムを一番認めていただいているからです。今後も炭素繊維は、「軽量化プレミアム」を認めてもらえる市場に投入していきます。

 風車の分野は、2014年3月に炭素繊維メーカー大手の米ゾルテック(ミズーリ州)を買収しました。ゾルテックは低価格の炭素繊維を生産する企業で、風車用の炭素繊維で50%のシェアを持っています。この買収を機に、これまで我々が手掛けてこなかった分野の炭素繊維も市場を開拓していきます。