半沢 智(日経エコロジー)

富士通は、成長分野に「社会課題の解決」を掲げ、事業の幅を広げている。農業とICT(情報通信技術)を融合させた、新たな農業を提案する。

 2014年5月29日に開催された富士通の経営方針説明会で、富士通の山本正已社長は、2016年度に目標とする営業利益を、同社過去最高となる2500億円とすることを明言した。近年注力していた不採算事業の効率化や人員削減に一定のめどがついたと判断し、2014年度からは、事業の新たな柱を生み出すための成長戦略を実行に移す「攻め」に転じる。

 富士通が事業領域とするICT(情報通信技術)分野は、技術や市場の変化が激しい。2012年、海外メーカーの台頭により、主力事業である半導体事業が苦戦し、最終損益は赤字に転落した。翌2013年は、スマートフォンやタブレット端末の急速な普及により、携帯電話やパソコン関連事業が赤字になった。持続的に成長するためには、既存事業に代わる新たな事業の柱が必要だった。

 こうした中、同社が成長戦略として位置付けたのが「社会の革新」である。その柱の1つとして掲げたのが「食と農業」だ。

 2012年7月に具体的なサービスとして打ち出したのが、農業支援サービス「Akisai(秋彩)」である。農産物の生産にICTを活用して様々な情報を収集し、データに基づいて作物ごとの費用構造や収益性を明らかにする。これまで農作物の生産現場に取り入れることが難しかったきめ細かい生産管理や経営管理を可能にすることで、「儲かる農業を」を支援するサービスである。

成長領域に経営資源をシフト

100兆円市場を狙う

 同社が「食と農業」に注目したのは、この分野には国内外で長期的な需要があり、その解決に同社の強みであるICTのノウハウが生かせると考えたからだ。

 現在、国内の農業は、高齢化や人手不足への対応や、国際競争力の強化が課題となっている。収益管理や農産物の品質管理は、作業者の勘に頼ることが多い。

 ICTを活用したシステムの構築やデータ分析は、同社の得意分野である。「農業生産に得意分野のノウハウを取り入れることができれば、農作物の生産性を飛躍的に向上できる」。こう考えた。

 現在、約250軒の農家で利用されており、2015年度にはこれを2万軒まで増やす計画だ。累計売上高は150億円が目標である。富士通の2013年度の連結売上高は4兆3817億円であることを考えると、目標とする売上規模は小さい。しかし同社は、国内の農業生産市場を約10兆円とみており、今後、市場が大きく拡大する分野とにらんでいる。

 さらに、食品の加工、卸、小売り、飲食といったバリューチェーン全体を含めると、市場規模は100兆円を超えると試算している。生産者から得た情報をバリューチェーン全体で活用し、それぞれの業種に向けたサービスを提供することで利用者数を伸ばしていく戦略である。

 国内で蓄積したノウハウを海外展開できれば、さらなる売り上げの拡大が見込める。

 同社は、ICTを活用した農業生産システムを次世代の有望な輸出産業と位置付ける。イノベーションビジネス本部ソーシャルイノベーションビジネス統括部の若林毅シニアディレクターは、「新興国の成長に伴い、長期にわたって食料やエネルギー不足は深刻さを増す。世界的な課題の解決と企業の持続的な発展を両立できる」と説明する。