斎藤 正一(日経BP環境経営フォーラム事務局長)

「真面目だが、口下手」とのキリン評を返上するため、力を注ぐ。商品の原材料や容器包装にこだわり環境価値を社外に発信する。

小高 正寛(こだか・まさひろ)
キリン環境推進部長
1961年石川県生まれ。84年早稲田大学理工学部卒業、同年キリンビール入社。2008年、キリンビール横浜工場副工場長・環境安全室長、2010年キリンディスティラリー代表取締役社長、2013年から現職

 ビール業界でキリンは、真面目な社風で知られるが、小高さんも実に真面目な方だった。言葉を選びながら、こちらの質問に誠実に答えようとする姿勢が随所にうかがえた。大学で機械工学を学び、入社後の約10年間は機械の設計・製造に従事した。その後、10年以上、取手、北陸、名古屋で工場勤務を経験する。この時代に工場の排水処理や省エネなど環境規制と向き合った。しかし、工場の環境対策はミスが許されない。緊張を強いられ、必ずしも楽しい仕事ではなかった。

 転機は横浜工場の副工場長になり、地域や他の企業との交流が増えてからだ。「キリングループへの評価と期待の高さを感じて、それまで以上に環境への取り組みを積極的にしなければと思った」と振り返る。工場がある横浜市鶴見区の環境委員を務め、区全体の緑化にも関わった。その後、静岡県御殿場市のキリンディスティラリーに社長として出向し、環境への愛着を深めた。同社はウイスキーや飲料水など水にこだわる商品を製造しており、水源の森を守る活動に取り組んだ。

 2013年、キリングループは、2050年長期環境ビジョンを策定した。この中で「水資源」「容器包装」「生物資源」「地球温暖化」の4つを軸に「資源循環100%社会の実現」を目指し、持続可能な事業のあり方を追求すると宣言した。2013年1月、キリンは国内の酒類・飲料を統括する会社として誕生した。その初代環境推進部長に就任した小高さんのミッションはステークホルダーと共有価値を創造しながら、このビジョンを他部署と協力して具現化することである。

 冒頭のキリン評は、その後に「真面目だが、口下手」と続く。企業が進むべき方向を示しても、社外に伝わらなければ意味がない。現在、力を注ぐのが、コミュニケーション力の強化である。「お客様に飲んでいただいた商品の原材料や容器を通じて、我々の環境価値を外部に発信したい」と力強く語る。

 これまで「低炭素企業グループの実現」などを掲げてきたが、顧客にうまく伝わらなかった反省に立つ。直接、手に取る商品を通じて、コミュニケーションを取ろうという戦略だ。既に茶葉の輸入元であるスリランカの紅茶農園に対して持続可能な農法認証の取得を支援したり、再生ペット素材を100%使用したリサイクルペットボトルを導入する取り組みを一部の商品で始めている。

 2014年8月下旬、岩手県遠野市を訪れ、初めてホップの収穫祭に参加した。収穫したばかりのホップのみずみずしさに感動し、「商品の背景にある原材料の価値やそれを作る農家の皆さんの熱い思いを伝えたいと感じた」。収穫祭で現地の空気を吸い、情報発信に必要な大切なものを手に入れたようだ。