斎藤 正一(日経BP環境経営フォーラム事務局長)

「中長期的な視点の仕事は子育てと同じ」の言葉で覚悟を決めた。世の中に役立つが信念、会社の発展に関わる仕事がしたいと話す。

横見瀬 薫(よこみせ・かおる)
1958年東京都生まれ。81年日本女子大学卒業、同年花王石鹸(現花王)入社。84~97年消費者相談業務、2003年生活者研究センター第3研究室室長、2010年サステナビリティ推進部課長、2013年から現職

 現在、花王で活躍する女性幹部は、消費者相談業務を経験した人が多い。横見瀬さんもその一人だ。顧客からのクレームを聞くことで精神的に鍛えられると同時に、クレームを商品開発に結び付ける重要な役割を担っていたからだろう。

 入社後3年半の秘書室勤務を経て、消費者相談業務には13年間携わった。単身赴任の男性からの「モチをカビさせないために、ハイター(塩素系漂白剤)につけてよいか」との質問は今も忘れられない。当然、つけてはいけないのだが、この要望に応える商品はできないかと商品開発部門に伝えた。消費者の声にヒントがないか、を考える日々が続いた。

 その後、経験が買われ生活者研究センターで、消費者ニーズを探る仕事に就く。紙おむつを担当した時は、母親がおむつ替えをしている時にどのプロセスで「肌にやさしい」というコピーを実感するかを徹底的に探った。おむつ替えの現場を訪ね、ビデオを何百本も撮った。母親の視線の先を追い、「赤ちゃんの肌に赤みがないこと」で肌にやさしいおむつだと実感することを探り当て、社内で評価された。

 こうしたキャリアの横見瀬さんが、サステナビリティ推進部の辞令を受けたのは4年前のことだ。商品開発の仕事は短期間で結果が出たが、新しい仕事は、今日、明日の利益には結び付かない。「何をやればよいのか」と大いに悩んだ。そんな時に何人かの男性から次のように励まされ仕事に前向きに取り組めるようになった、と振り返る。

 「中長期的な視野で考えなければならないこの仕事は、子育てと同じ。こうした仕事は女性に向いている」。女性に向く仕事であるならばとことん取り組もう、と仕事への覚悟を決めることができた。

 サステナビリティ推進部では、まず、外部の社会的責任投資(SRI)の花王に対する評価を上げることに取り組んだ。担当役員にかけあい、各部署から調査の回答に必要なデータを出してもらえるようになった。社内の関係部署の協力もあり、2014年、花王は代表的なSRI指標である「DJSI World」で、日本企業で唯一、産業別のトップ企業に選ばれるまでになった。

 花王は2013年7月、サステナビリティに関する新しい方針「花王サステナビリティステートメント」を発表し、3つの重点領域として「エコロジー」「コミュニティ」「カルチャー」を選定した。このステートメント作りでも、同部が中心的な役割を果たした。

 横見瀬さんに「信念は何ですか」と尋ねると、「世の中の役に立つ人になることです」と明快に答えた。すぐに結果が見える仕事ではないが、退職する時に、会社の発展のどこか一部に関われたという仕事を残していきたいという。