聞き手/田中 太郎(日経エコロジー編集長)

「MOS」という独自の考え方を取り入れ、サステナビリティ経営を推進する。後継者を選ぶ際の最も重要な条件は、MOSを理解していることだと断言する。

――「MOS(Management of Sustainability)」という独自の考え方を2011年度から経営指標に取り入れ、サステナビリティ(持続可能性)に正面から取り組んでいます。

定量的に評価してこそ本気になる

小林 喜光(こばやし・よしみつ)
1946年山梨県生まれ。71年東京大学相関理化学修士課程修了。74年三菱化成工業(当時)に入社、2005年三菱化学常務執行役員、2007年三菱ケミカルホールディングスと三菱化学の社長に就任。2014年11月、経済同友会の次期代表幹事に内定
写真/尾関 裕士

小林喜光氏(以下、敬称略) われわれの経営には3次元の評価軸があります。1つは当然、もうけて法人税を支払い、株主に還元することです。これが「MOE(Management of Economics)」です。しかし、ステークホルダーは政府や株主だけではありません。メーカーとしては新しいテクノロジーを世に問うことが必要です。これが2つ目の「MOT(Management of Technology)」です。

 そして3つ目が社会性。人や社会、そして地球のサステナビリティの向上を目指すMOSです。この3つのバランスからできたベクトルが会社の価値だと強く意識して経営しています。

 MOSには、「サステナビリティ」「ヘルス」「コンフォート(快適)」の3領域があり、CO2の排出削減やコンフォート商品の売り上げなど22の具体的な指標を作っています。そして、2015年度に設定した目標に対する実績で点数を付けています。定量的に評価することが一番のポイントです。ここまでやっているのはうちが最初じゃないですか。会社全体が本気で取り組むには、トップが「こうありたい」と定性的に言うだけでは動きません。どこまで達成できているのかを定量的に評価してこそ本気になるのです。

――財務・非財務の情報を合わせて公開する統合報告書に具体的なMOSの達成度を数値で示していましたね。MOSを指標にすることはいつ思いついたのですか。

小林 2005年にCTO(研究開発担当常務)になり、何をやるかのテーマ設定で悩んだ時に思ったことがあります。最低でも10年、20年先の社会がどうなっているのかを想定して、それに対してどんな研究開発を準備するかを考えるのがあるべき順番なのではないか。バックキャスティングですね。そこで、コンサルタントにも議論に参加してもらい、将来のテーマを考えました。

 彼らが提案してきたキーワードは「サステナビリティ」と「ヘルス」でした。しかし、人間の思いはサステナビリティと言っても身近さがなくて動かない。ヘルスは自分のことだから少しは思いが動くかもしれないけれど、一番響くのは「いいクルマに乗りたい」「いいソファに座りたい」という「コンフォート」でしょう。これを除いてはいけないだろうと、私が加えたんです。すべての始まりはここからでした。この3つに寄与しないものは止めようと決めました。

 2007年に社長になってからは、新規事業も同じようにサステナビリティ、ヘルス、コンフォートの3領域に絞り込みました。有機系の太陽電池やLED(発光ダイオード)、有機EL、植物工場、ヘルスケアソリューション…すべて地球環境と人の健康に関係するものです。一方、炭素繊維複合材などは、軽量化によって自動車や飛行機から出るCO2を減らすとともに、快適さにも貢献します。

サステナビリティへの貢献度を定量的に評価
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