斎藤 正一(日経BP環境経営フォーラム事務局長)

32年間勤めた宣伝部から、2012年に環境セクションに異動した。「美とエコをつなぐ」目標に向け新しいライフスタイルを提案する。

岡本 善勝(おかもと・よしかつ)
資生堂CSR部環境企画室長
1957年福岡県生まれ。80年九州芸術工科大学卒業、同年資生堂入社。2006年宣伝制作部制作プロデュース室長、2012年より環境企画部長、2013年より組織改編により現職

 入社後、32年間、宣伝部に在籍し、40代に入ってからは資生堂の企業CMの数多くを手がけてきた。宣伝の仕事はポスターにしてもテレビCMの制作にしても、伝えたい多くの言葉をいかに絞り込むかに知恵を絞る。インタビューの最中、物事の本質を深く考えた言葉が次々に出てきた。本質を考えるという点で、宣伝と環境の仕事は似ているのかもしれない。東日本大震災から1年後の2012年に岡本さんは、環境セクションに異動したが、現在、社内の環境教育や社外への情報発信の仕事に充実した毎日を送っているように見えた。

 九州芸術工科大学を卒業後、資生堂宣伝部にグラフィックデザイナーとして入社した。その後、テレビCMなどを手がけるようになった。転機は、27歳の時から3年半のパリ勤務だ。世界的に有名なイメージクリエーター、セルジュ・ルタンス氏と海外向け広告を制作し影響を受けた。忘れられないのは、ある化粧品ブランドの宣伝で彼が付けた「選択、それは本当の価値」というコピーだ。「価値はあなたの選択が決める、といった意味。クリエーティブな仕事をする人には、哲学的な教養が備わっていることを学んだ」と振り返る。

 環境部門に来てからも、人の出会いに恵まれた。東北大学大学院の石田秀輝教授(当時)の講演を聴き感銘を受けた。「企業活動は人を豊かにするためにある。利便性の追求の末に現在があるが、果たして私たちは豊かだろうか」との問いかけに真摯に向き合おうと考えたのだ。

 人類の活動が地球にかける負荷は、既に地球1個分の許容量を超えている。資生堂の環境活動は、「資生堂ならではの『美とエコをつなぐ新しいライフスタイル』を実現」を目標の1つに置く。我慢を強いることなく、地球1個分の許容量に見合うような新しいライフスタイルを、商品を通して提案する。これが今の岡本さんのミッションである。

 社内向け環境教育にも力を入れている。各部署を回り、朝礼の時間に環境問題の重要性を説く。宣伝部時代の経験を生かして映像を制作し、楽しみながら環境問題を学べるよう工夫を凝らしている。「レフィル数え歌」と題した約1分の映像は社内教育用に作成したものだが、資生堂の詰め替え、付け替え商品が700以上あることを美しい映像と音楽で分かりやすく伝えている。目下の課題は、他の環境先進企業に比べて役員の環境意識が高いとは言えないことだ。「50年後、企業の環境・CSR活動に対して社会が求めるレベルが高まっていることは間違いない。今から、対応しなくてはいけない」と話す。岡本さんが選択した新しい価値観を、役員を含めた社内全体に広げる時機が来ている。