斎藤 正一(日経BP環境経営フォーラム事務局長)

入社以来27年間、技術者として基礎研究に打ち込んできた。米国駐在で経験したコミュニケーションを実践したいと話す。

坂内 隆(ばんない・たかし)
1962年東京都生まれ。86年東京理科大学理学部卒業、同年本田技研入社。内燃機関の基礎研究、北米研究所などを経験。2014年より環境安全企画室、同年10月より現職

 根っからの技術者が、ホンダの環境部門のトップに就いた。入社以来27年間、技術者として低エミッションエンジンなどの基礎研究に取り組んできた。この間、常に意識していたのは、「技術の価値は何かを見定める」ことだ。所属したのは、製品開発ではなく将来に備えて技術を研究する部門。消費者から離れた職場であったために、時に目の前の研究に没頭しがちになる。こうした思いを戒めるために、「現在、取り組んでいる仕事は、どんな意味や価値を社会に提案したいのかを絶えず自問自答した」。

 子供のころからモノ作りが好きで、親や周囲の人からよく褒められた。この原体験が「技術は人に喜んでもらうためのもの」という意識を育んだのだろう。低エミッションの発電用ガスタービンの開発も手掛けたが、自分は世の中を良くする仕事をしているとの気持ちで取り組んだと振り返る。

 2010年から4年間の米国駐在が、大きな転機になった。シリコンバレーにある研究子会社に責任者として赴任し、IT大手やベンチャー企業の関係者と交流を深めた。基礎技術を作るための原理や理論を見つけるという基礎研究の中でも最上流の仕事を担当した。シリコンバレーで新鮮だったのは、会社の代表として話をしていても「あなたはどう思うのか」を常に問われたことだ。「個人の思いをストレートに伝え、人に対して常にオープンで接する仕事のスタイルに感銘を受けた」と話す。

 2014年4月に環境安全企画室に異動し、10月から室長に就いた。異動して驚いたのは、環境負荷に関するデータが世界の隅々の工場から集まっていることだ。毎年、ホンダはCO2の削減量などを公表しているが、現場の人たちの努力の積み重ねで達成していると実感した。「多くの仲間の努力を高い価値にして、ステークホルダーに提供する」ことが、この部署の仕事だと考えている。坂内さんが心がけたいのは、シリコンバレーで経験したコミュニケーションの実践である。大きな組織のなかでは、自分の仕事の上流や下流で働く人の気持ちが見えづらくなってしまうことがある。まずは自分の周囲からでも、「自分はこうしたい」「あなたにはこうしてほしい」との思いをしっかりと伝えたいのだそうだ。

 前任者は強い個性で、ホンダのプレゼンスを高めた。これを継続し、さらに発展していくことが目標だ。そのために企業の本質的な力のさらなる強化を目指す。工場のCO2削減にしても、コスト削減が伴い、生産現場に根付いたものになっていなければ継続は難しいとの思いが強い。1つひとつの環境負荷削減の意味合いを社内に根付かせるためにも、社内のコミュニケーションに力を注いでいく。組織が目指す進路に迷いは感じられなかった。