聞き手/田中 太郎(日経エコロジー編集長)

「複写機卒業」を宣言し、ビジネスの転換を図る。顧客に価値を提供するビジネスにCSRは欠かせないと主張する。

山本 忠人(やまもと・ただひと)
1945年神奈川県生まれ。68年山梨大学工学部を卒業、富士ゼロックスに入社。94年取締役、96年常務、2002年専務執行役員を経て、2007年6月に技術系出身として初めて社長に就任した。米国ゼロックスへの赴任経験もある
写真/鈴木 愛子

――CSRは本業とは切り離せないと宣言しています。

山本忠人氏(以下、敬称略) メーカーは良いものを作って顧客に喜ばれなくてはなりません。しかし、良いものを作ってさえいればよいのかといえば、そういう企業にはなりたくないと思っています。私は社長に就任した時に「複写機卒業」と言ったのですが、その真意は何かといえば、複写機の製造をやめるということではありません。製品をただ販売するのではなく、顧客の経営課題を解決するようなソリューションやサービスを提供する会社にならなければならないという意味です。

 単純に良いものを安く売ればよいと考える会社ならば、赤字だろうが、素性が悪かろうが関係ないでしょう。しかし、顧客のために価値をつくる会社であれば、その行動や姿勢が問われます。

――紺屋の白袴ではダメだということですか。

山本 私たちは「知の創造と活用をすすめる環境の構築」「世界の相互信頼と文化の発展への貢献」「一人ひとりの成長の実感と喜びの実現」をミッションステートメント(経営理念)として掲げています。

 これを実現するには、働く社員が幸せな会社、顧客から信頼される会社でなければなりません。さらに、パートナーである取引先があっての我々ですから、取引先との相互の信頼も重要です。すなわちバリューチェーンに関係するステークホルダーに対していい加減なことはできません。

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採算性はむしろ高まる

――中でも特に関心を持っているテーマは何ですか。

山本 取引先とのより良い関係ですね。CSR調達に力を入れています。大切な顧客に製品やサービスを提供するためのパートナーですから、胸襟を開いて話し合い、素性をよく知らないといけません。

 また、顧客やサプライヤーなどのステークホルダーとの間で動くのは社員です。社員が生き生きと顧客やパートナーのために働いてくれなくては困ります。ES(従業員満足)も大事です。このように考えると、CS(顧客満足)も、ESも、環境経営の強化も、CSR調達もそれぞれ独立してあるわけではないんです。

――CSR調達の具体的な内容を教えてください。

山本 いわゆるグリーン調達も入っていますし、取引先が法令を守って事業運営されていることも重要です。当社から守っていただきたいことを伝え、合意した上で調達します。ただ、最初から満点ということはなかなかありません。そういう場合は、経営者にいつまでに改善するのか約束をしてもらい、当社からも社員を派遣して是正してもらうこともあります。

 現在は全体の8割ぐらいを中国で生産しており、日本から進出したサプライヤーも現地のサブサプライヤーと取引しています。そうなると、当社の製品に組み込まれる部品などがどういう経緯で作られてきたかを確認することが非常に重要になります。サプライチェーン上で児童労働がないか、紛争鉱物を扱っていないかなどを確認しなくてはなりません。

 当社が求める水準に達しなければ取引をお断りします。例えば以前、不法伐採した製紙会社からの紙の購入を一挙にやめたことがあります。

――CSR調達に厳しい条件を設定すると調達コストが高くなる懸念はありませんか。

山本 いいえ。事業採算性はむしろ良くなると考えています。例えば、安い給料で従業員を働かせている企業は、従業員がすぐに辞めてしまいます。しかし、当社が取引している企業は離職率が非常に低いです。慣れた従業員が仕事をしていれば品質が安定しますし、教育のためのコストもかかりません。当社がCSR調達をきちんとやることによって、調達先のステータスが上がり、他のメーカーからの仕事も増えます。CSR調達を厳しくすることで、かえってありがたがられています。

――せっかく育てたサプライヤーと競合他社が取引するのは困りませんか。

山本 いいえ、そんなことはありません。設備の稼働率が上がり、生産性も上がって、コストも下がります。もちろん、その分はしっかり価格を下げてもらいます。

――現地のサプライヤーも進化しているんですね。

山本 そうです。1995年に中国に進出してから20年たちますが、本当にレベルが上がってきました。それに、BCP(事業継続計画)上のリスクも減ります。労働条件の悪い企業は賃上げ闘争でストライキがすぐに起こります。しかし我々は、サプライヤーのストライキで部品が手に入らないといったことは、ほとんどありません。