馬場 未希(日経エコロジー)

東芝が水素エネルギー事業の新戦略を発表した。CO2を排出しない再エネ由来の水素を他社との競争力の源泉にする。

4月6日の研究センター開所式の様子。右から田中久雄社長、望月義夫環境大臣、高野律雄府中市長

 「水素は世界のエネルギー供給のパラダイムを大きく変える可能性がある」。東芝の田中久雄社長は4月6日、水素技術の研究センターが東京・府中市の事業所で開所した際の記者会見で、スピーチを締めくくるのにこの言葉を使った。これはスピーチ向けに用意された言葉ではない。東芝の従業員は、田中社長のこの言葉をよく耳にしているという。

水素技術の強みを売り込む

 田中社長の言葉には、同社の技術が世界の水素サプライチェーンの構築に貢献できるという自信がにじむ。現在、世界におけるエネルギー供給の主役は火力発電や原子力発電などの大規模集中型システムである。一方、水素を利用すれば、燃料電池を生かした小・中規模の分散型システムが活躍するようになる。水素は石油精製プラントなどで製造できるので、燃料の産出地も変わる。

 水素を作って、ためて、発電に使うまでのサプライチェーンに、東芝の強みとも呼べる技術が生かせる。このことが、田中社長が水素事業に意欲を見せる背景にある。前川治上席常務は、「製造から貯蔵、使用、全体の効率運用・管理までの技術を提供できる唯一の企業」と説明する。

 トヨタ自動車による燃料電池自動車(FCV)の発売で、水素市場への企業の参入が相次いでいる。水素供給では岩谷産業やJX日鉱日石エネルギーなど、輸送では川崎重工業、千代田化工建設などが挙げられる。

 東芝の強みはこうだ。1960年代に燃料電池の開発を始めて以来、水素技術開発の歴史は半世紀にわたる。2009年には都市ガスなどから水素を取り出して使う家庭用燃料電池コージェネレーション(熱電併給)システム「エネファーム」を発売し、現在は国内でトップシェアだ。

 ガスタービン発電向けの燃焼機では高い競争力を持ち、燃料を水素に替えても生かせる。水蒸気を電気分解して効率的に水素を作る「固体酸化物形電解セル(SOEC)」の水素製造装置は他社にない技術だという。エネルギー管理システム(EMS)では世界36地域のスマートコミュニティへの参画実績があり、電力会社向け系統制御で磨いた技術でも優位を保つ。技術を単品で売るだけでなく、サプライチェーン全体をまたがるシステムを提供できる。

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 新しい研究センターにはSOECなどを使う2種類の水電解水素製造装置や、純水素燃料電池などを展示室に並べた。段階的に実用化させ、「水素インフラ事業」を展開する。

 さらに東芝は、同社が「再エネ水素」と呼ぶ再生可能エネルギーで作る水素をこの事業の柱に据えた。太陽光や風力の他、水力や地熱など、同社が強みを持つ再エネ技術と、水電解水素製造技術を生かす。

 他社のように化石燃料から水素を作ると、その過程でCO2を排出する。一方、再エネで発電した電気を使って水素を作ればCO2を排出しない。前川上席常務は「CO2を排出しない水素は、独自の競争力になると判断した」と説明する。

 水素インフラ事業には長期戦略で挑む。2015年度から地域の再エネを生かして水素を作り、ためて、必要に応じて使う「地産地消型」システムを実用化する。

 太陽光発電や風力発電などと水素製造装置、水素貯蔵タンク、燃料電池などを組み合わせる。同社が得意とするエネルギー管理や系統制御の技術も組み込む。離島から都市まで段階的に規模を拡大させる。2020年度にこれらのシステム全体で1000億円の売り上げを目指す。

 2025年度以降は、海外で大規模に水素を製造し、水素輸送の技術を持つ他社との協力で国内に運び、数十万kW級のガスタービン発電などに使うような水素サプライチェーン向けに技術を実用化させる。

■ 段階的に水素インフラ事業を拡大する

 2014年に政府がまとめたエネルギー基本計画や技術開発のロードマップには、水素サプライチェーンの構成技術が2020~30年代に実用化や本格利用される将来像が描かれている。この実現に貢献する考えだ。