メーカーのノウハウで再生

■ バイオマスなどで購入電力の9割減を目指す
地元の未利用材のチップを年間7000t使用し、購入電力9割減を達成する

 コマツが工場で使用する木質チップは、年間7000tに達する。そのすべてを地元の「かが森林組合」から調達する。チップの材料は、間伐材の枝や先端、根本などの未利用部分を使う。石川県は豊富な森林資源に恵まれているにもかかわらず、林業の近代化が遅れ、経営状況が悪化の一途をたどっている。未利用材を収益化できれば経営の改善につながる。そこで、コマツが一役買って出たというわけだ。

 コマツは単に地元産のチップを購入するだけではない。林業の現場に分け入って、製造業で培った技術や知見を生かし、チップを安価に安定調達する体制を一から構築した。

 2014年2月、コマツはまず石川県と石川県森林組合連合会と「林業に関する包括連携協定」を結び、関係者間の協力体制を作り、支援に乗り出した。しかし、中心メンバーである、粟津工場プロジェクト室の三谷典夫・担当部長は、すぐにカルチャーショックを受けた。

 売電収入を当てにしないコマツにとって、木質チップの価格がプロジェクトの成否を分けるカギを握る。しかし、「チップの製造コストを査定して価格を交渉しようにも、『原価率ってどういう意味ですか。償却って何ですか』という具合で会話が成立しない。そして二言目には『補助金はいくら出るの』とくる。まず原価意識を持ってもらい、一緒になって無駄を省いていく必要があると痛感した」と三谷氏は振り返る。

 無駄の象徴は、未利用材を数cm角に破砕するチップ製造機だった。ドイツ製の装置を使用していたが、価格が高い上に不具合が多く、補修部品を注文してもなかなか届かないため、稼働率が低かった。チップを安価に安定調達する上で、ここがボトルネックになっていた。

コマツの粟津工場で4月に本格稼働したバイオマスボイラー

 そこで、コマツは取引先の機械メーカー、タガミ・イーエクス(石川県能美市)に白羽の矢を立てた。安価で保守も容易な国産チップ製造機の開発を持ちかけたのだ。コマツは製造機に用いる部品の供給などで協力し、ドイツ製をしのぐ性能で、価格も約2割安い製造機を開発した。

 間伐材の収集、チップの加工、工場への搬入といった各段階の作業も詳しく分析し、組合とともに細かな改善を重ね、生産性を引き上げていった。そうしたノウハウのすべてが製造業で培ったものだった。こうして、チップの取引価格を1kg当たり10円に抑えることに成功した。

 生産コストを下げる取り組みは今も続いており、山林で使える移動式のチップ製造機を開発中だ。コマツは、バイオマス利用を通じて、林業の再生だけでなく地元製造業の事業創出も狙っている。タガミ・イーエクスは、チップ製造機を新しい収益の柱と位置付け、全国に販売する。工場で使用するバイオマスボイラーなどの機器も、地元の中堅機械メーカーが製造した。「北陸には素晴らしい技術を持った中小ものづくり企業が集積しており、こうした皆さんと手を携えて地方創生に取り組みたい」と野路会長は語る。

地域活性化で会社を強くする

 それでは、なぜコマツはそこまで地域の活性化にこだわるのだろうか。コマツは林業に使用する重機も手がけており、狭い意味では林業が再生すれば直接収益に結びつく。しかし、地元の活性化はコマツにとってもっと大きな意味を持つ。

 前会長の坂根正弘相談役はかねて、東京一極集中の弊害を指摘し、地方創生の重要性を説いてきた。生活環境に恵まれていて物価も安い地方で優秀な人材を育て、高度なものづくりを実現することが、日本の産業競争力を維持する上で欠かせないというのが持論だ。

 実際に、2011年に創業地の小松市に総合研修施設を設け、人材育成機能を東京の本社から移転した。石川県をはじめとした、地方での採用も意識的に増やしてきた。

 地域経済が活力を失い、人材が流出していけば、そこに立地する企業の競争力が足元から揺らぎかねない。北陸には、コマツの調達先やそれに関連する企業も数多く存在する。競争力を失わないためには、コマツだけが一人勝ちするのではなく、北陸全体の経済が活力を維持し続けることが重要なのだ。

■ “一挙四得”のバイオマス利用
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 人材の活用という点で、バイオマス利用の取り組みには実はもう1つの意義がある。コマツは、このプロジェクトをシニア生産技術者の活用の一環として進めてきた。旗振り役となった前出の三谷氏は63歳。現場の第一線を離れた社員も、生産管理やコスト管理などの豊富な経験と、多岐にわたる知見を持っている。コマツはこうした手塩にかけて育てた人材を、地方創生に積極的に活用していく考えだ。

 コマツは、バイオマス利用によって購入電力量の削減と地方創生を両立させた粟津工場の成果を、全国の生産拠点へ展開することを目指す。ただし、地域ごとに抱える課題や前提条件が異なるため、単純な水平展開はできない。現場に深く入り込み、様々なステークホルダーと連携して複合的な課題を解決するという「コマツウェイ」の真価が試される。