企業統治の課題は2つ

 第一に、コーポレートガバナンス・コードでも言及されている通り、ステークホルダーへの配慮は収益機会の獲得、リスクマネジメントに有益な示唆をもたらすことが、強く認識されるようになったという事実がある。

 第二に、企業にとっての主要な株主が、個人投資家から年金基金や運用機関といった機関投資家に移行することで、投資の最終受益者が結果として、企業のステークホルダーにもなり得るという認識が広がってきたという事実がある。

 直接の株主が年金基金や運用機関であっても、その背後にいて投資リターンを受け取る最終受益者は、自社の配慮すべきステークホルダーと同一の可能性がある。そのため、株主とその他のステークホルダーを明確に分けることは困難ということである。

 コーポレートガバナンス・コードはこのことに明示的には触れていないものの、「社会・経済全体に利益を及ぼす」という表現に含蓄されていると考えるべきだろう。こうしたことを背景に、広義のコーポレートガバナンスが望ましいと考えられるようになってきたといえる。

 コーポレートガバナンス・コードのメッセージを踏まえ、日本企業のコーポレートガバナンスの実態を整理しておきたい。

 ステークホルダーへの配慮を重視した企業の報告書として、財務情報と非財務情報を統合した「統合報告書」がある。非財務情報とは、ステークホルダーへの配慮に関する情報で、もともと企業市民としての責任を果たそうとの考えから、環境配慮の活動などが報告されてきた。

 近年では、本業を通じた社会貢献重視の取り組みも含むように発展し、製品の耐用限度や操作の簡便性といった品質に関する情報、女性・外国人の採用状況や研修費用といった「人財」に関する情報までも指すようになった。

 こうした非財務情報の開示の本格化は、コーポレートガバナンス・コードの施行より前の2009年に、国際統合報告協議会(IIRC)が発足したことが契機になった。海外で統合報告書の導入が広がったのに乗り遅れまいとした日本では、約300社が統合報告書を発行した。国別の発行社数で世界最多である。海外でも統合報告書「先進国」と称されている。

■ 統合報告書を発行する企業数(国内)
2017年は7月までの発行数を示す
出所:企業価値レポーティング・ラボ「国内自己表明型統合レポート発行企業リスト 2017年版」(2017年7月現在)

 しかし、それらの統合報告書をつぶさに読んでいくと、日本への「先進国」という評価は過大なもので、参加企業を急増させたことへの「ご祝儀」に過ぎなかったことに気づかされる。確かに財務情報と非財務情報が1つの資料として掲載されているが、多くの場合、既存のアニュアルレポートとCSRレポートを単純に張り合わせた程度にとどまっているというのが率直な感想である。

 コーポレートガバナンス・コードでも強調されている統合報告書発行の最大の根拠は、今後の企業の経営戦略において、非財務面が財務面と同様に企業の成長を大きく左右するとの認識である。その結果、GPIFに加え、国内外の巨大年金基金は、ますます非財務情報の開示を求めるようになった。

■ ESGの向上やCSR活動の目的
出所: 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)
「第2回機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」
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 GPIFが実施した上場企業アンケートでは、回答企業の約7割がESGやCSR活動の目的として「企業価値向上」や「リスク低減」、またはその両方と答えている事実もある。しかし、経営戦略と結びついた形での説明がなされていない統合報告書は、残念ながら数多い。こうした「残念な統合報告書」に共通な特徴として、以下の2点を挙げたい。

 第一は、非財務項目が財務項目に与える定量的なインパクトが示されていないことである。

 統合報告書の主要な読者が投資家であることを考えれば、このような説明が無い非財務項目の取り組みは単なる資本の無駄遣いと誤解されかねない。非財務項目が財務項目に与える定量的インパクトを把握し、開示すべきである。

 第二は、非財務情報の開示内容が、投資家向けの情報開示媒体ごとに異なっていることである。例えば、「人財」の多様化・育成について、統合報告書では詳述する一方、中期経営計画では一切言及がないケースがある。これは、統合報告書の作成のために年次ベースで非財務情報をまとめたものの、中長期ではそれらを積み上げた経営戦略が存在しないという実態に原因があろうと推測できる。これでは統合報告書としての信頼を得られるはずがない。