海外投資家はこう見ている

 海外の運用機関も上記の意見におおむね同意している。2016年12月に英国のロンドンとエディンバラでESG投資を行なう運用機関5社を訪問した。その際に聴いた生の声を紹介したい。

 運用機関が統合報告書を推奨しているのは、大前提である。ある投資家は、企業行動と開示情報のギャップを常に意識しており、統合報告書はそのギャップの縮小に有益だと話していた。

 別の投資家は企業調査の際、元従業員やサプライヤーといった企業のステークホルダーへの取材も行うという。その基礎調査に統合報告書を用いると話していた。しかし、統合報告書への期待値が高いため、内容の乏しい統合報告書には批判的であった。アニュアルレポートとCSRレポートを単純に張り合わせただけで、内容が統合されていない報告書に対しては厳しい視線を向けていた。

 もっとも、統合報告書を発行する姿勢も兆候もない企業に対しては、投資家に対する十分な説明責任を果たしていないと不満を漏らしていた。

 統合報告書はあくまで経営戦略とその実行結果を報告する媒体である。しかし非財務情報の重要性が増した現在は、財務面と非財務面の両面をつまびらかにしながら、経営戦略がステークホルダーから総合的な監視を受けることによって、最適な選択が可能になったことは先述の通りである。

 ここで、経営戦略の総合的な監視は、企業外では株主やその他のステークホルダーが行なうものの、企業内では取締役会の役割である。取締役会の役割・責務は、コーポレートガバナンス・コード【基本原則4】によれば、
(1)企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2)経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3)独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行なうこと
──と規定されている。

 取締役会についても、海外運用機関から数多くの意見を聞いた。ある運用機関は、日本企業が自己資本利益率(ROE)についての目標を口にするようになったものの、その実現のための事業戦略として特筆すべきものが見当たらないと話していた。

 この投資家はグローバルにアクティブ投資を行なっており、IT(情報技術)やヘルスケアといった成長株に重点的に資金配分していることが、発言に大きく影響していると考えられる。アクティブ投資家とは、運用担当者が保有する企業を選別し、市場平均を上回るリターンを目指す投資家のことだ。その対となるパッシブ投資家は、保有企業や保有割合を市場の株価指数に似せるようにし、株価指数と同等のリターンを目指す。

 アクティブ投資家にとって、特徴ある企業戦略を求めることは当然である。運用機関は、ステークホルダーへの配慮も含め、持続的な高成長を実現する企業を発掘しようとしている。

 別の運用機関も、日本企業は法令順守は得意だが、コーポレートガバナンスと事業戦略との関連性の説明は不得手と話していた。(2)の「適切なリスクテイク」が必ずしも行われておらず、事業戦略の魅力について懸念を持っている。

 その原因として、取締役会の多様性に疑問を呈する海外運用機関の声も紹介したい。多くの投資家は依然として、日本企業による独立社外取締役の活用に、改善の余地があるとみている。

 ある運用機関は、多くの日本企業が独立社外取締役の選任に消極的なために、既定路線の延長でしか戦略を立案できず、現金保有が過剰になってしまっていると指摘した。

 別の運用機関は、適切なリスクテイクを支援するには社長などの経営経験者が取締役に就任するのが望ましいにもかかわらず、弁護士や大学教授が選任されるケースが多く、独立社外取締役の意義が理解されていないことに落胆していた。

 さらに別の運用機関は、日本企業の現状に対し、株主として行動を起こすと話した。独立社外取締役の取締役会に占める割合が3分の1未満の日本企業に対して、株主総会で議案に反対票を入れると明言した。

 ここまでに、コーポレートガバナンスとCSRの関連性、それを示す媒体として統合報告書、その日本企業の現状、海外運用機関の見方を紹介してきた。これらを踏まえ、「経営を強くするコーポレートガバナンス」の要諦を最後に提言したい。