現代奴隷法で開示要請強まる

 第1はサプライチェーン上で増えている人権リスクだ。海外での生産や部品調達が当たり前になった今、委託先工場やサプライヤー工場で起きる人権問題で発注元の日本企業が責任を問われるケースが増えた。

 こうした多国籍企業に起きる人権問題は、2011年に国連が「ビジネスと人権に関する指導原則」を採択したことで企業が取り組むべき重要課題になった。企業には人権を尊重する責任があるとする原則で、人権方針の策定、リスクを評価して低減させる「人権デューデリジェンス」の仕組みの導入、人権侵害があった場合の改善措置などの対処を求める。

 この考えはISO26000やOECD(経済協力開発機構)多国籍企業行動指針にも盛り込まれている。

■ 最近起きた人権や労働面の問題
赤字はサプライチェーンの問題、青字は外国人技能実習生の問題、緑字は自社従業員の問題
出所:MSCI の資料や報道資料などを参考に日経エコロジー作成
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 指導原則に基づいて人権対策を始めた欧米企業から日本企業に人権や環境に関する質問書が送られ、回答を要請されるケースが増えたのもこの頃からだ。電子機器業界では、EICC(電子業界行動規範)に基づくサプライヤー行動規範への同意書や質問書が送付されてきた。日本企業やそこに部品を納めるアジアのサプライヤー工場が欧米企業から監査を受ける例も出てきた。

 リコーは複写機などを納入する欧州の顧客企業からサプライチェーン上の人権・環境対策についての質問書に回答する「EcoVadis」というシステムへの参加を要請され、2009年以来、毎年回答してきた。回答を求める欧州企業は当初10社程度だったが、年々増え、2017年は82社に増えた。情報開示を断れば取引停止を言い渡されるリスクもあり得る。

 2013年からは紛争鉱物規制が始まり、日本企業も対応を迫られた。そして2015年のG7エルマウ・サミットでは、ビジネスと人権に関する国別行動計画の策定が首脳宣言に盛り込まれた。現時点で行動計画がないのは日本とカナダのみ。日本は2016年の国連会議で作ることを宣言したが、いまだ棚上げ状態で人権後進国と見られつつある。

 各国は行動計画を後ろ盾に法整備を始めた。例えば2015年に英国で成立した現代奴隷法。同国で事業を行う売上高が一定以上の企業に対し、サプライチェーン上の人権リスクの調査と取り組みの報告を義務付けた法律だ。毎年報告が求められる。「既に十数社の日本企業が声明(報告)を出している。2017年2年目に突入し、人権対策の仕組み作りに本格的に乗り出した企業もある」と、EY Japan気候変動・サステナビリティサービスリーダーの牛島慶一氏は指摘する。フランスやオランダでも同様の法律が成立する動きがあり、欧州でビジネスをする日本企業は対応を余儀なくされている。

■ ユニクロ銀座店での人権抗議活動
NGOのヒューマンライツ・ナウはユニクロの下請けであるカンボジア工場で起きた大量解雇事件を問題視し、2016年10月に抗議活動を展開した

 サプライチェーンの人権・労働問題でNGOからネガティブ・キャンペーンを展開される日本企業も増えてきた。ユニクロを運営するファーストリテイリングは2016年10月、銀座店の前で「首切りファッションなんて着たくない」というプラカードを掲げるNGOの抗議活動を受けた。

 弁護士の伊藤和子氏が事務局長を務めるヒューマンライツ・ナウというNGOが仕掛けたものだ。同NGOはユニクロのカンボジア下請け工場で労働組合活動に参加した従業員が大量解雇された事件を問題視し、国際キャンペーンを展開。この事件の前には中国の下請け工場で月100時間を超える残業や劣悪な労働環境の問題を指摘していたが、大きな改善が見られないまま話し合いが平行線になっていたことを問題視した。「国際ブランドであり、シェアも大きい。世界への影響力を考えてキャンペーンに踏み切った」と伊藤氏は打ち明ける。

 ユニクロだけではない。複数の企業がNGOやメディアの攻撃にさらされる事件が相次いでいる。