東京五輪で人権に厳しい目

 企業の人権対策には投資家も強い関心を抱いている。国連の指導原則に従って企業の人権対策を採点する世界標準作りも始まった。英保険大手アビバや米投資会社カルバート・インベストメントなどから成るイニシアティブが、採点手法を開発。2017年3月に試験版のスコアを発表した。農業、アパレル、資源採取の世界企業98社を公開情報から採点した。日本企業ではイオンとファーストリテイリングのスコアも発表されたが、高いスコアは得られなかった。

 2020年の東京五輪が近付き、日本企業の人権対策には世界からより厳しい目が向けられるようになった。五輪やワールドカップは世界的なイベントだけに人権侵害のネガティブ・キャンペーンを仕掛ける格好のターゲットとなってきた。

 新国立競技場を巡っても、既に人権問題に関してNGOが批判の声を上げている。1つは地盤改良工事を担当する建設会社の若手社員が2017年3月に過労自殺した件。もう1つはコンクリート型枠に使用された合板がマレーシアの先住民の権利を侵害した伐採業者から出荷されたものだというNGOの主張だ。これに対し東京五輪組織委員会はこの合板は問題のないものだと応酬している。

■ 五輪組織委員会とILOがパートナーシップ
東京五輪組織委員会は環境や人権に配慮した持続可能な調達コードを2017年3月に発表。5月に国際労働機関(ILO)とパートナーシップを結ぶことで合意

 組織委員会は2017年3月に持続可能性に配慮した調達コードを発表し、強制労働や児童労働、長時間労働の禁止、差別の排除などを盛り込んだ。外国人労働者に関しても、旅券の取り上げ、強制帰国、保証金の徴収、賃金の不払い、違法な長時間労働を行ってはならないと詳細な内容を盛り込んだ。関係者の1人は、「ロンドンが『環境五輪』なら東京は『人権五輪』と呼ばれたい」と息巻く。

 人権配慮の実効力を上げるため、組織委員会は2017年5月、ILO(国際労働機関)とパートナーシップを結ぶことで合意した。人権を学ぶ冊子やe-ラーニングの開発、セミナーの開催を通して啓蒙し、人権対策をレガシーとして残すことを目指している。日本企業の人権対策の好事例を世界に発信していきたい考えだ。

「人権後進国」にはなるな

 目の前に立ちはだかる3つのリスクを乗り越え、人権後進国と呼ばれないために、日本はいまが正念場だ。「GPIFのESG投資が転換点となり、人権対策は対応せざるを得ないテーマになった。欧州は人権を参入障壁にしようと戦略的に動いている。投資にも、従業員にも、バリューチェーンにも関係する人権を、経営問題と捉えて日本企業も急ピッチで取り組むべきだ」と牛島氏は話す。

 国内に目を向ければ、人口が減少する中で優秀な人的資本を確保できるかが企業にとって重要になっている。「投資家は、従業員の定着率や教育プログラムの仕組みを企業の成長の伸びしろとみるようになった」と日本総合研究所の足達英一郎氏は指摘する。人権対策は今ここにある危機、であると同時に、人材を確保して成長を占う鍵ともなっている。

不透明な規制動向でも、紛争鉱物対策は着実に進む

 日本企業の人権リスクへの対応が進んでいるのが紛争鉱物規制だ。2010年に制定された米金融規制改革法(ドッド・フランク法)に基づき、米国の上場企業は紛争鉱物を使用しているかを調達先まで調べ、米国証券取引委員会(SEC)に報告し、内容を公開することが義務付けられた。2013年度分の報告から始まり、2017年で4年目になる。

 紛争鉱物とは、コンゴ民主共和国などアフリカ中部の資源国で武装勢力の資金源になっているスズ、タンタル、タングステン、金の4鉱物を指す。採掘のための強制労働などが問題視されている。電子機器などに幅広く使われており、米国の上場企業と取引する日本企業も対応しなければならない。

 ただ、米国の規制はここに来て先行きが不透明になっている。紛争鉱物調査の内容を強制的に開示させることについて、米連邦巡回区控訴裁判所は2014年に違憲の判断を下している。SECは2017年2月に規制見直しの方針を表明した。その一方で、電気電子業界の自主的対策は広がっている。サプライチェーンの透明化を進める「責任ある原材料イニシアチブ(RRMI)」などが立ち上がり、4鉱物に加えてコバルトなども対象にする検討を始めている。

 逆にEUでは紛争鉱物規制が強化される見通しだ。2017年3月、「紛争鉱物資源に関する規則案」を欧州議会が採択。今後、EU理事会で承認され、2021年から適用される見込みだ。アフリカ中部に限らず、リスクの高い地域から鉱物資源を調達するEUの製錬所や輸入業者に対し、調査の実施を義務付ける。

 「規制はどうであれ、企業の責任として対応を進める」と日本の電機メーカー幹部は話す。電子情報技術産業協会の「JEITA責任ある鉱物調達検討会」が5年前から全国の主要都市で開催している説明会には毎年、合計1000人以上が参加する。同協会は2017年初めて、参加企業を対象に取り組み状況をアンケートした。結果は現在集計中だが、日本企業の紛争鉱物対策がどこまで進んだかを測る資料になる。

(日経エコロジー2017年11月号から転載)