半沢 智(日経エコロジー)

水素社会の実現に向けた、一大プロジェクトを推進する。サプライチェーンのすべてを担える「総合水素企業」を目指す。

 水素は、燃やしてエネルギーを取り出すときにCO2を排出しないため、次世代のクリーンエネルギーとして期待されている。ただし、製造時にはCO2を排出してしまう。そこで、発電時だけでなく製造時もCO2を排出しない「CO2フリー水素」が注目されている。

 2016年4月1日、国外で製造したCO2フリー水素を海上輸送して国内で利用する世界初のプロジェクトが本格的に始まった。挑むのは、川崎重工業、岩谷産業、シェルジャパン、電源開発による「CO2フリー水素サプライチェーン推進機構」である。

 このプロジェクトは、川崎重工業が2008年から構想を温めてきた。同社が、主幹事としてプロジェクトを取り仕切る。技術開発本部水素チェーン開発センターの西村元彦・副センター長は、「水素の大量消費社会の幕開けにつながるプロジェクトになる」と話す。

CO2フリー水素を大量輸送

 舞台は、豪州ビクトリア州ラトロブバレーの炭田。この地域は、地上から地下250mまで褐炭の埋蔵が確認されており、その炭田が地平線まで広がる。埋蔵量は世界最大規模の372億tで、日本の総発電量に換算すると240年分に相当する。

 褐炭は若い石炭で、水分量が50~60%と多いため輸送に適さない。さらに乾燥すると自然発火しやすいことから、量は豊富にあるものの現地での発電にしか利用されてこなかった。海外取引されないため安価に入手でき、事業化に見合う量を確保できる。ここに目を付けた。

 プロジェクトでは、ガス化炉で褐炭から水素を取り出し、液化プラントで水素を液化貯蔵する。この水素を日本まで輸送する計画だ。

 水素の製造時に排出したCO2は、80km先の海岸沖にある枯れかけの海底ガス田に貯留する。現在、豪州政府と州政府が約200億円をかけてCO2の回収貯留(CCS)事業「カーボンネット」を進めており、この事業を通じてCO2の貯留を委託する計画だ。こうしてCO2フリー水素を製造する。2020年には実際に豪州から水素を輸入したい考えだ。

 このプロジェクトでは、1日当たり火力発電100万kWの燃料相当となる770tの水素を製造し、2隻の水素運搬船を就航させた場合、水素の輸入価格は29.8円になる見込みだ。エネルギー総合工学研究所は、水素1m3当たりの輸入価格が25~45円のとき、1次エネルギーの約4割を水素にすると最も国民の経済負担を少なくできると試算している。採算面での見込みは十分だ。

 2015年11月に水素ステーションを運営する岩谷産業が、FCVの燃料用の水素価格を1m3当たり100円にすると発表した。このプロジェクトが実現できれば60円程度にまで下がる見込みで、そうなれば本格的な水素社会の到来が見えてくる。