半沢 智(日経エコロジー)

途上国の低所得者層向けに、水の浄化ビジネスを加速させている。生活が向上していく中で自社製品を売り込み、成長市場の先取りを狙う。

 アフリカ西部にあるセネガルの首都ダカールから北へ約200km、セネガル川沿いの砂漠地帯に約300人ほどが暮らす小さな集落がある。集落の中心となっているのが、セネガル川沿いにある「YAMAHA」のロゴが掲げられた装置だ。ヤマハ発動機が2011年に設置した浄水装置「ヤマハクリーンウォーターシステム」である。

 この浄水装置によって、村人の暮らしは大きく変わった。

 浄化した水を食事や飲用に使うことで、下痢や皮膚病などの病気が大きく減った。これが母親の衛生意識の向上につながり、乳児の死亡率も減少した。

 この地域では、女性や子供が生活用水の調達を担っている。これまで、ポリタンクを担いで大きな町まで水を買いに行く必要があったが、こうした重労働からも解放された。

 浄化した水は、村人たちの手によってポリタンク1杯約5円で村人に販売している。村人にとって決して安価とはいえないが、「きれいな水を買って生活をもっと豊かにしたい」と考える村人が増えた。

 装置設置後の村の生活について、海外市場開拓事業部エリア開拓部国際協力グループの渡邊基記グループリーダーは、「きれいな水が村人の働く意欲を引き出し、村に活気をもたらしている」と話す。

ヤマハ発動機が提供する浄水装置(左)。水インフラがない村落の住民にとって貴重な生活用水になっている(右)
写真左/久野真一、JICA

水からバイクやボートへ

 ヤマハ発動機は、この浄水装置をアジアやアフリカの途上国で販売している。これまで、インドネシア、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、スリランカ、モーリタニア、セネガルの8カ国に約20台を設置した。現在も、海外市場開拓事業部が交代で海外を飛び回り、売り込みをかけている。

 同社の狙いは、浄水装置の販売を通じて途上国でYAMAHAブランドを高め、主力商品であるオートバイやモーターボートの販売に結びつけることにある。

 水浄化ビジネスは、低所得者を対象にしたBOP(ベース・オブ・ピラミッド)ビジネスである。まず低所得者層にYAMAHAの存在を知ってもらう。そして経済成長によって所得が増えた中所得者層に、仕事で使うための小型バイクや小型船外機などを購入してもらう。高所得者層になった顧客には、大型バイクやヨットなどのレジャー商品を訴求する。低所得者層へのビジネスは、生涯にわたってヤマハ商品を購入してもらうための下地作りに他ならない。

村を丸ごとYAMAHAに

 ヤマハ発動機の2輪車販売シェアは、ホンダに次いで世界第2位である。これまで、スズキ、川崎重工業を含めた日本メーカーが世界シェアの約4割を占めてきた。しかしここ数年は、成長著しい新興国市場において、インドのヒーロー・モトコープ、バジャージ・オート、中国の大長江集団などの低価格バイクがシェアを拡大しており、日本メーカーは苦戦を強いられている。

 2014年度の全社の連結売上高は、1兆5212億円。中期経営計画では、これを2017年までに2兆円に引き上げる目標を掲げている。目標達成のためには、更なる経済発展が見込まれる東南アジアや、未開拓のアフリカでのシェア拡大が不可欠だ。

 商品単体で勝負すると価格競争に陥ってしまう。そこで、生活や遊びの場を含めた価値を提供する中で、オートバイなどの商品を販売していく。商品単体の価値にとどまらない付加価値の提供を通じて村を丸ごとYAMAHAブランドで浸透させ、競合メーカーに対抗する戦略だ。

■「 YAMAHA」ブランドを途上国の将来顧客に訴求
水浄化ビジネスは低所得者層がターゲット。YAMAHAブランドを広く浸透させ、将来的にバイクや船外機の購入に結びつける
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 企業ブランドの向上は、長期的な事業拡大のために同社が掲げる重点戦略の1つでもある。2020年に向けた事業の方向性を定めた長期ビジョン「Frontier 2020」でも、持続的な成長のためにブランド力の強化を戦略の柱としている。水浄化ビジネスは、まさにこの長期戦略に沿った取り組みの1つである。

 同社が途上国ビジネスに取り組み始めたのは、1960年代にさかのぼる。メキシコやセネガルなどの集落に赴き、船外機を使った漁業を手ほどきすることで市場を開拓し、自社商品の販売につなげるといった活動を続けてきた。こうした取り組みが、現在の海外事業開拓部の前身となっている。