新事業創出が課題

 複写機のリコーが、なぜ地方創生に取り組むのか。背景に、リコーグループの経営環境がある。

 リコーグループ全体における事業分野別の売上高構成比を見ると、複合機や印刷機などの「画像&ソリューション分野」が全体の89.4%を占める。同社の主力である複合機や印刷機は、この先、必ずしも明るい未来が続くとはいえない。国内では導入がほぼ一巡しており、大きな販売増は見込めない。

■ 新規事業の創出と育成が課題
出所:リコーグループサステナビリティレポート2015より抜粋

 海外での販売にも力を入れているが、キヤノン、富士ゼロックス、コニカミノルタといったライバルとの競争が激しさを増している。つまり、今後も継続的に収益を確保していくためには、複合機や印刷機の販売に頼らない新規事業の創出が最大の課題というわけだ。

SWOT:S(強み)、W(弱み)、O(機会)、T(脅威)
出所:リコーグループサステナビリティレポート2015より抜粋

 リコーグループは現在、2014年4月~2017年3月を対象とした第18次中期経営計画に取り組んでいる。同計画では、売上高2兆5000億円、営業利益2000億円などの数値目標を掲げているが、これまでにない特徴がある。三浦善司社長は、「2020年とその先に私たちがどうありたいのかということから、今を変革しようということで策定した」と話す。18次中計を2020年以降も継続的に成長していくための転機と位置付け、「コアアセットを活用し、19次以降を担う新規事業を創造する」という目標を掲げた。

 三浦社長は、「18次中計は事業の基礎をつくる段階なので、効果より費用・投資の方が多くなる」と話す。地方創生の取り組みは、将来の持続的な成長を担う新規事業創出のための先行投資という位置付けだ。

全国の販売拠点を生かす

 新規事業の鉄則は、リコーグループの「強み」を活用し、時代の動向を捉えた「機会」を生かすことである。同グループの最大の「強み」は、全国361拠点の事業所を擁するリコージャパンの販売網だ。地域に密着した「顧客接点力」を持っており、同グループ売上高の約3割を占める。

 「機会」として捉えたのが、2014年9月に発足した第2次安倍改造内閣が国家プロジェクトとして打ち出した地方創生だ。2014年12月には、地方自治体に活性化策の立案を促す「まち・ひと・しごと創生法」が成立した。都道府県や市町村に対して、人口減少に歯止めをかけるための目標や方向性を示す総合戦略の策定を努力義務とした。

 この動きを受け、リコージャパンでは、2015年4月に、従業員250人もの大型の配置転換を実施し、地方創生を事業とする社会イノベーション部を発足させた。全国の自治体に悩みを聞く作業が始まった。

 はじめは、訪問した自治体担当者から、「コピー屋さんが地方創生に何の関係があるのか」と言われたという。しかし、これまで販売員として養ってきた根気強い訪問とソリューション提案力で、いくつかの自治体から、「相談に乗ってほしい」という依頼を受けるようになった。こうして協定締結に至った例の1つが、冒頭の坂井市である。

■ 地方企業の支援や街づくりを収益の基盤に
2016年4月から電力の小売り販売を開始。電力販売をきっかけに、オフィスの省エネや働き方の改善などの提案につなげる

 リコージャパンは、2016年4月から電力小売り事業も開始している。中小規模の事業所や店舗を対象に、割安な電力を販売する。目的は、単なる電力販売ではない。電力販売をきっかけに、省エネや新事業の相談など、企業の様々な「困りごと」を探り、自社のソリューションで解決する。こうした取り組みも地方創生の1つと位置付ける。


街づくりの支援も

 地方創生の取り組みは、リコー本体でも実行している。

2015年8月に神奈川県海老名市に開設した「リコーフューチャーハウス」。まちづくりに参加し、地域のコミュニケーション拠点の役割を担う

 2015年8月には、神奈川県海老名市に、地域住民のためのコミュニケーション拠点「リコーフューチャーハウス」をオープンした。地域食材を用いたレストラン、プリントショップ、地域住民のためのイベントホール、小中学生向けの学習スペースなどを同社が運営する。

 狙いは拠点の運営だけではない。防犯システムやLED街灯の整備、エネルギーマネジメントなど、環境に配慮した街づくりの提案につなげていく。こうした街づくりの新規事業モデルを国内の他の地域、さらにはグローバルに水平展開して事業拡大を図る考えだ。

 同グループの地方創生の取り組みが本格化するのはこれからだ。自治体を優良顧客としてつかめれば、複写機をはじめとする自社ソリューションの販売先として末永い収益源になりえる。

 ただし、地域活性化や街づくりを事業の柱に育てるには、手間も時間もかかる。自治体や企業の困りごとを探り、自社の持つノウハウをどのように組み合わせればよいかを考え、顧客に合わせた提案を用意する必要がある。地域との信頼関係は、一朝一夕に構築できるものではない。自治体への長期的な働きかけのための人材の確保や育成なども必要になるだろう。

 地域に欠かせない企業になることができれば、永続的に収益を確保するための基盤ができる。目指すのは、地域の雇用やエネルギー供給など、その地域で欠かせない企業になることだ。オフィス課題を解決する企業から、地域課題を解決する企業へ─。「コピー屋」が「地域の困りごと解決企業」に生まれ変われるか。大きな挑戦が始まった。