大西 孝弘(日経エコロジー)

競合他社に比べ研究開発費の少ないスズキの弱点は、環境技術と見られてきた。だが、鈴木修会長の「こんちきしょう」の精神を具現化し、エコカーでも革新を起こした。

 環境技術やエコプロダクツは資金力のある大企業同士の戦いだ。そう断じている読者はいないだろうか。 自動車業界にそんな見方を裏切ってくれる企業がある。スズキだ。自動車業界では相対的に小さな企業規模ながら、巧みな戦略でエコカーでも存在感を発揮しつつある。

研究開発費はトヨタの12%

 スズキの競争環境は、極めて厳しい。世界で需要が急増する自動車市場とはいえ、競争相手はトヨタ自動車など世界有数の巨大企業だ。

 日本の「ビッグ3」の研究開発はけた違いに大きい。2015年度のトヨタの研究開発費は1兆500億円、ホンダは7200億円、日産自動車は5300億円に上る。それに対して、スズキは1300億円にとどまり、トヨタの12%程度だ。

■ 自動車各社の研究開発費(2015年度計画)

 この状況は次世代技術の祭典である2015年10月末からの東京モーターショーでも如実に表れていた。

 日本のビッグ3は燃料電池車(FCV)や自動運転車などを派手な演出で打ち出し、イベントを盛り上げていた。その一方でスズキは鈴木俊宏社長が新型車などをアピールしたものの、地味な印象をぬぐえなかった。

 長い間、同社は日本の軽自動車市場やインド市場ではトップシェアを誇ってきたが、エコカーが最大の弱点と見られてきた。

 そのため、積極的に大手と提携し、環境技術の供給を受けてきた。同社は1980年代から米ゼネラル・モーターズ(GM)と資本提携していたが、GMの経営不安から2008年に提携は解消された。翌年にスズキが選んだパートナーが独フォルクスワーゲン(VW)だった。VWは2009年にスズキ株の19.9%を取得した。

 そのVWとの提携が同社の経営の不安要素に転じてしまう。当初、スズキはVWからディーゼルエンジンなど環境技術を提供してもらう予定だった。対等な関係を築く計画だったが、VWが支配権を強めようとしたため、提携関係が決裂。VWから環境技術の提供を受ける構想はとん挫する。

 資金力や提携の経緯だけを見ると、スズキの環境戦略は圧倒的に不利な状況にあるように見える。しかし、この数年の環境規制や市場動向を踏まえると、不利とは一概に言えなくなりつつある。

 まず先鋭的な環境規制の影響を受けにくいポジションを取っている。今、世界の自動車メーカーにとって最大の脅威になっているのは、米カリフォルニア州のZEV(排出ガスゼロ車)規制だ。

 これは自動車メーカーに、販売台数の一定割合を電気自動車(EV)などZEVとするよう義務付ける規制である。基準未達のメーカーは罰金を払うか、超過で達成するメーカーから「ZEV排出枠(クレジット)」を購入しなければならない。

 スズキは自動車メーカーが最も恐れるZEV規制の影響を受けない。2012年に米国の4輪車販売から撤退したからだ。

 また欧州の二酸化炭素(CO2)の排出規制の影響も小さい。各メーカーは2021年に新車平均のCO2排出量を走行1km当たり95g以下にしなければならない。大型車が多いメーカーは苦戦しているものの、スズキは小型車が主力であるためCO2排出量が少ない。

 規制がなくとも、燃費は顧客満足度につながるクルマの重要な機能の1つだ。同社はその満足度を高めるため、10年ほど前から同社独自の燃費技術を仕込んでいる。新型アルトの燃費は37km/ℓを達成し、トヨタのハイブリッド車(HV)「アクア」に並ぶ。

 そのアルトの販売が伸びた他、インドが好調で、2015年4~9月期の売上高は前年同期比9%増の1兆5555億円、営業利益は12%増の1010億円だった。株価は8月に上場来高値を更新した。

 鈴木修会長は、「技術者が奮起してほとんど技術的な課題は解決できた」と語る。その環境技術は逆境における鈴木会長の「こんちきしょう」の精神を具現化するかのように、規模で劣る企業ならではの創意工夫に満ちている。